19 ダルんちのこと

 確かにルギはマユリアのめいがなければトーヤと本気でぶつかる必要などない。


「けどな、それをどうやってルギに知らせるかが難しいだろうが」

「そうなんだよなあ」

「いや、その前にマユリアの中のマユリアってのの正体を暴かないとな」

「え、それはマユリアで決定じゃねえの?」

「なんだと?」

「いや、マユリアの中にいる本物のって言ったらいいのかどうかわかんねえけど、元々の女神様ってのがそうなんだろ?」


 確かにそういう話は出た。だが確証はまだつかめていはいない。


「そうなんじゃねえか、ってところまでだな、今んところは」

「うーん、どうやったらそうだってわかんのかな」

「そりゃ、あの光に聞くしかねえんだろう。けどトーヤが持ってるあの石はなんも反応しなかったからな」

「うーん」


 ベルが首をひねりながら言う。


「そもそも光るのか、あれ?」

「は?」

「答えが分かったら会おうって言ってたよな」

「そうだな」

「ってことは、光って教えるってより、いきなり呼ぶんじゃねえの?」


 アランは妹の意見に一理あると思った。


「じゃあ、答えが合ってても、全員があそこに行ける状態になかったら反応しないってことか」

「ってこともあるのかも、ってこと」

「ふうむ」


 アランが少し考え込む。


 今のところ全員をあそこに呼ぶにはトーヤが持っている御祭神の分身、ミーヤが持っているフェイの宝物の青い小鳥のガラス細工、そしてリルが「アベル」と呼ぶようになったベルが作った木彫りの細工物、そのどれかと一緒にいる者があの不思議な場所に飛べるのだろうと思っている。


「なんでああいうのが必要かというとだな、あの光が言ってたように助けが必要だからだろう」

「だな」


 あの光は「どうしても神の力を借りなければならない時には童子が生まれてくる」と言っていた。


「つまり、おまえとフェイの童子の力を借りてあそこに移動できると考えるのが妥当だ」

「うん、妥当だな」

「どういう仕組みかは分からんが、フェイがトーヤに買ってもらったガラスとお前が作った木彫り、それがその力の象徴みたいなもんなんだろう」

「それとトーヤの石な」

「そうだな。そのどれかがない場所にいるもんは、飛べないってことはだ」

「ダルんち」


 そうだ。カースの村長一家には何もない。


「だからじいちゃんばあちゃん、かあちゃんおやじさん、それとダリオの兄貴がそれのあるどっかに行かねえと本当のことはわかんねえんじゃねえの。もしかしたら一緒だったらもう飛べてて正解だって言ってもらえてたかも」

「ふうむ……」


 もしも三つのうちのどれかが一緒でないと飛べないとしたら、確かにそうだ。


「けどなあ、だからってじゃあダルさんの家族をどこにどうしてもらうかってのはなかなか難しい気がするぞ」

「だよなあ」

「宮に来てもらうってのもキリエさんやルギに変に思われるだろ?」

「だよなあ」

「前はおまえらがカースにいたからなんとかなってたけど、どうすっかな」

「トーヤに行ってもらうってのは? こっちはフェイでなんとかなるだろ」

「それが一番確実ではあるが、トーヤにそう何度も行き来させるわけにいかねえだろ」

「そうだよなあ」


 トーヤはマユリアに会いに行った時と、ここに戻ってくる時の2回、シャンタル宮に潜り込むことに成功している。だが、次に見つからないという保証はないのだ。


「特に今はキリエさんとルギが敵に回ったような状態だ、前は見逃してたけど今度は罠を張ってる可能性だってある」

「だよなあ」

「もしもカースにうまく行けたとしても、肝心の交代前に戻ってこられねえと意味ねえからな」

「だよなあ」


 アランとベルはそうしていくつか案を出し合い、翌日トーヤたちに相談することになった。


「じいさんたちにも石や鳥みたいな何かが必要ってことだが、それはなんとなく分かってた。けど確実に集まれる状態を作る前に、それで正解かどうか聞いておきたかったんだよ」

「だよな」

「ああ、どうなるか分かんねえのに何回も年寄りを動かすわけにもいかねえし、言ってる通り俺がカースに行くってのも今の状態になるとちと難しい」


 トーヤもそのことは考えていたらしい。


「答えが合ってるってなったらなんか反応あるんじゃねえかと思ってたんだが、やっぱだめかな」

「分からんが、その可能性もあるんじゃねえかって話になった」

「どうしたもんかね」

「なあなあ、じゃあミーヤさんがカース行くのは」

「それもちょっと難しいかと思います」


 ミーヤは月光隊付きとしてカースやリュセルスの月光隊本部に行くことはあるが、今は取次役とアランたちの世話係も兼任しているため、宮の外のことは外の侍女に頼んでいる状態だ。


「時期も悪いです。今は交代前なので宮の外へ出ることがほぼありません」

「それにミーヤが今カースに行ったらキリエさんやルギが変に思うかも知れん」

「ええ、それもありえるかと」

「じゃあ、残る手は一つだな」

 

 ベルがアランと話していた方法を口にする。


「じいちゃんたちに、リルの見舞いに行ってもらう。兄貴とそれしか手がねえよなって話してた。ダルなら両方に伝言できるだろ?」

「後は、いつ行ってもらうか、そこなんだよな」


 やはりこれだと思う答えが出てからのことになりそうだ。

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