12 時期の特定

「私はそのような話は聞いていませんが、アーダ様はどちらでその話を耳にされたんでしょう」


 ミーヤは自分が聞いていないことを強調することで、それは事実ではないと思いたい、そんな風に言う。


「同期に神殿との連絡係がいるのですが、その子が神官長からの取り次ぎを奥宮に頼んだところ、マユリアはご不快でお休みになっておられるとお断りがあったとのことでした。ですが、それから間もなくご回復になられたとお聞きして、安心をしたと」

「その話、もう少し詳しく教えてくれ、一体いつ聞いた?」

「こちらに伺う前です」

「前って、ついさっきってことか?」

「はい。それで言う機会を逸しておりました、申し訳ありません」


 アーダは自分がとんでもないミスをしてしまったように感じ、小さくなってうつむいてしまった。


「いや、すまなく思わなくていい。ここに来る前に聞いた、それこそそれをここで話せと言わんばかりだ」

「そうだな、時が満ちたんだと思いますよ」

 

 トーヤとアランにそう言われ、アーダが右隣のミーヤを心細そうに見上げる。


「私もそう思います、八年前もそうでした。そういえばそんなことがあった、後にして思えば、そんなことの連続だったと遠く過ぎた今だからやっと分かることなんです」

「ありがとうございます」


 ミーヤにそう言ってもらい、アーダはやっとホッとしたようだ。


「今まではそういうことがあったらあんたが教えてきてるんだと思ってた。今度のこともそうか?」


『いいえ、わたくしではありません』


 トーヤの質問に光が答える。


『先ほども申した通り、わたくしにはもうそれほどの力は残っておらぬのです』


『今できるのは宮に結界を張り続け、そしてあなたがたをここに呼ぶことだけ』


「それは、そんだけ力をマユリアに持ってかれてるからか?」


『もちろんそれは大きいと言えるでしょう』


「ってことは、他にも理由があるってことか」


『もう一つの大きな理由』


『それはわたくしが力を使うとマユリアに知られてしまうということ』


「なるほど、あっちの方が力が強いから全部読まれてしまうってことですか」


 アランが聞く。


『その通りです』


「じゃあ、ここに俺らを呼ぶことは大丈夫なんですか? それこそそんな大胆なことしたら知られそうなもんだけど」


『トーヤの持つ石と同じです』


『わたくしの力の外のことととらえてもらえばいいと思います』


「それってさ、もしかして見つかる前にどっかに隠してたからってこと?」


『ええ、童子』


 光はベルの言葉に柔らかく微笑んだようだ。


『そう受け止めていただいていいと思いますよ』


「へえ、もしかしたらって思ってへそくりしてたようなもんだな」

「おまえはどこまで雑な言い方してんだよ」

「いや、けどさあ、実際そうなんねえ?」

「まあ、そうかも知れねえけどな、言われてみれば」


 最後にはトーヤもベルの言葉に笑ってしまう。


『童子』


 光もシャラシャラと楽しそうに笑ったようだ。


「とにかく、まあ童子様言うところのへそくりのおかげで、今こうしてここで話ができてる。それは間違いねえ。つまり、もうあんたにはそんだけの力しか残ってねえってことなんだな?」


『それも少し違います』


『わたくしのやらねばならぬこと、そのために残してある力』


『それ以外の力を使ってできることという意味です』


「なるほど、分かった。そりゃまあ確かにそれは必要だな」

「それじゃあさっきミーヤさんとトーヤが言ってたこと、時が満ちるってのは、一体誰が教えてきてたんです?」


 いつものようにトーヤの言葉にアランが続ける。


『運命です』


『運命には誰も逆らうことができません』


『それはわたくしだとて同じことなのです』


「その運命ってのは神様が、つまりあんたらが決めてるとばかり思ってたんだがな」


『いいえ』


『運命とは天が定めしもの』


『本来ならばその定められた通りに流れていくもの』


『ですが、その流れを曲げ、時に止めようとする力が働くことがあるのです』


『その歪みを正していただきたい』


『そのために今、ここに集まってもらっているのです』


「めんどくせえことに関わっちまったもんだな、俺らも」


 トーヤが苦笑する。


「けど、こんだけ関わっちまったからにはやるしかねえしな」

「そうだな」


 トーヤのため息にアランのため息が混ざる。


「ってことで、さっきのアーダの話に戻るが、やっぱりその頃でほぼ間違いねえだろう、マユリアの表と中が入れ替わったのは」

「その入れ替わりのために体調崩してたってことになるのか」

「そういうことなのか? すんなりころっと入れ替わったってことじゃねえんだな?」


『おそらくは』


『さきほども申した通り、わたくしにはそのことを知るすべはありません』


『ですが、力を得たマユリアと当代が完全に入れ替わるには、おそらくせめぎ合いがあったと思います』


「当代が抵抗したってことか」


『おそらくは』


「じゃああれだ、当代は決してすんなりあんたの侍女に自分を明け渡したわけじゃねえってことになる」

「そうだよな! マユリアだって黙ってやられっぱなしってことないよな!」

「俺もそう思う」

「うん、きっとマユリアは私たちが助けに来るのを待ってる。私もそう信じてる」


 最後にシャンタルが仲間の言葉をそう締めくくった。

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