13 人としてのマユリア
「私も、私もそう信じます!」
侍女の中で一番にアーダがそう声を上げた。
「マユリアはきっと、私たちがお救いするのを信じてお待ちなんだと思います!」
「ええ、そうよね、アーダ様の言う通りだと私も思うわ!」
リルも続く。
「そうだ、マユリアをお助けするんだ! 俺、そのためにあそこでトーヤと会ったんだとやっと分かった!」
ダリオもそう言って握りこぶしを振り上げた。
マユリアが本心では今の状態を受け入れているわけではないらしい。不調の時期があったということがその証明のように思われて、みなの心は沸き立っている。
「お助けしたい……」
ミーヤも最後に話をした時のことを思い出す。
「最後にお会いした時、マユリアは私に自分のどこが好きかとお聞きになりました」
「え、マユリアがそんなことを?」
「ええ、そうなの」
リルが驚いてダルと顔を見合わせる。
「マユリアのどこを好きか、そんなこと考えたこともなかった。というか好きで当然というか、ええと、なんて言えばいいのかしら。難しいわね、そのような感情を超越されていらっしゃるというか……」
「本当だよな。そういうことのずっと上にいらっしゃるお方だし……」
「私もそうだったわ。それで困ってしまってお顔を見ていたら、海賊の真似をなさった時と同じ、いたずらっ子のように笑っていらっしゃった」
ミーヤは思い出す。あの時のマユリアの純粋で無垢な笑顔。とてもかわいらしく楽しそうでいらっしゃった。
「それで正直にそう申し上げたら、また海賊の真似をなさって、笑いながら、とっとと白状しないとサメの餌にしてしまいますよとおっしゃったの」
「マユリアがそんなことを……」
「そんなお方だなんて……」
ミーヤの言葉に神としてのマユリアを、遠くから見たことがあるだけのダルの一家が絶句する。
「そんな一面をお持ちの方じゃったんじゃな……」
「ええ」
村長の言葉にディナがラーラ様を思い出しながらそう相槌を打った。
「神とおっしゃるお方も、元は同じ人ということだな」
マユリアの美しさに圧倒された経験のあるディレンが、それでも小さくそうつぶやいた。
「それで、ミーヤさんはどう答えたの?」
「え?」
「マユリアの好きなところ」
ベルが素直に興味いっぱいの顔でそう聞く。
「全部と」
「全部?」
「ええ、嫌うところのないお方だと、正直に自分の気持ちをそのままに」
「マユリアはそれ聞いてどんな感じだった?」
「照れくさそうにお笑いになりました」
マユリアが照れた。その事実にまたシャンタリオの民たちが顔を見合わせる。
「そしてこうおっしゃったんです。褒めてもらうというのはとても照れくさいことだ、そのような経験がほとんどないのでなんだかとても恥ずかしく感じると」
「マユリア……なんだろう、なんだかとてもマユリアがさびしい人に感じる」
ベルがミーヤの言葉にそう言って涙ぐんだ。
「そしてトーヤにも同じことを聞いたのだと、その返事も教えてもらいました」
「え?」
「トーヤは、マユリアの根性が決まってるところが好きだと言ったんですよね? マユリアはとても喜んでいらっしゃいました」
「そういや返事を聞いて笑ってたな」
ミーヤはトーヤの言葉を聞きながら、あの時の黒い気持ちを思い出していた。
(ああ、きっと女神のマユリアの心にも同じ闇が湧き出したに違いない。自分ではない誰かを
ミーヤはその気持ちを理解できると思った。あの時、自分の心から染み出したあの闇、誰にでもそうなる可能性はある。
(だけど、その闇に負けてはいけないのだ。マユリアをその闇からお救いしなければ)
「マユリアはトーヤが言ったことを楽しそうにお笑いになって、そんな返事をくれる者だから、トーヤのことも私のこともお好きだとおっしゃいました。そしてその後で、トーヤは助けに来ると言ってくれたが、その気持ちには応えられないかも知れないと」
「なんで!」
「八年前と違い
「そしてキリエさんもそんなマユリアの考えに従うとも言ったんだったよな」
「ええ」
「もしかしたら、その民を、国を思って婚姻話を受け入れられた気持ち、その優しい気持ちにつけこまれたってことか」
どんな時にも冷静なアラン隊長が続けた。
「というか、女神の方のマユリアも、結局は自分がどうのこうのじゃなく、主がこの地を見捨てるというのなら、自分こそが民のために女王になる、そう思って決意したんだろう」
「どっちも善意からのこと、人を心から思ってからのこと、そう思うとやりきれねえな」
アランとの話の結果にトーヤが軽く首を左右に振った。
「だからあんたはあんたの侍女のマユリアも助けてくれと言った、当代だけじゃなく。けど、今聞いてて分かったと思うが、あんたの侍女にはもうその気持ちは届かねえ気がする。だから俺らは人としてのマユリア、当代マユリアだけを助けるつもりでいく。できればなんとかしたいけど、多分それで精一杯だ。すまないがな」
トーヤの言葉に光がか細く、悲しげに揺れた。
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