14 神の孤独
「それでいいよな?」
トーヤが返事がないことを許さないというように、光に確認する。
『よろしくお願いいたします』
少しして、光がようやく口にしたのはその言葉であった。
「さて、そんじゃ他に何か聞いておくこと、聞きたいことはないか」
そろそろ光との時間が終わる
「泣いても笑っても後8日だ、少しでもその時のために思いつくことがあるなら聞いといてくれ」
それからみながそれぞれに、気になることなどを光に質問し、光はできる限り丁寧に答えてくれた。その内容は、もしかしたら全く何も関係ないかも知れない、そんな事柄も含まれてはいたが、これが最後だと思うと次々と気になることは浮かんでくるらしい。
「ちょっとした学校みたいになったな。って、俺はそんなもん行ったこともねえから聞いた話になるけどな」
トーヤがその様子を見て笑いながらそう言った。
「でも本当に『学びの
リルが
『わたくしも楽しかった』
光もゆるやかに瞬きながらそう言う。
『まさか、このように穏やかな場にいられることになるとは思いもしませんでした』
「全くだな、俺も思わなかった」
「おれも!」
童子様も負けじと声を上げる。
「さあ、そんじゃそろそろいいか? いつまでもこうしててもしょうがない」
「あの」
ミーヤが硬い表情を浮かべ、静かに光を見上げた。
『なんでしょう、ミーヤ』
ミーヤはみなが色々な質問を投げかけている間、ほとんど口を開かずにじっとその様子を見つめているだけだった。トーヤはもしも何も尋ねることがないというのなら、無理に何かを聞けと言うのも変だろうと黙って視線の端に置くだけにしていたが、
(実際、俺ももう聞くことはほとんど聞いちまったから、今はこうして聞いてるだけだしな)
そう自分に言い聞かせながらも、実はかなり気にはなっていたのだ。
「ここからあちらに戻ったら、もう二度とお会いすることは叶わないのでしょうか」
ミーヤの言葉にみながドキリとした顔になる。
「そうか、ここを出てしまったら、もうお会いすることは……」
ダルの言葉に一層しんみりとした空気が流れる。
だが、光はその言葉に今まで以上に柔らかく瞬いた。
『いいえ、お別れではありません』
『ここにこのように集まることはもうありません』
『ですが、わたくしはこれからもずっとあなたがたのそばにおります』
『これまでがずっとそうだったように』
「見えないけどずっとそばにいます、いないけど自分はいます」
「それは……」
突然のシャンタルの言葉にミーヤが声を詰まらせる。
「フェイが、私のところに来てくれた時に言っていた言葉。ミーヤとトーヤに伝えてほしい、そう言ってたのを思い出したよ」
「フェイ……」
今でもその名を聞くと胸が苦しい。ミーヤが涙をこらえるように目を閉じ、下を向いた。トーヤはほんの少しだけ首をシャンタルから背けたようにベルには見えた。
(まるでそうしないと自分も泣いてしまうからみたいだ)
どれほどトーヤがフェイを思っていたかがその仕草から分かる。
「でもそうなんだよ、見えないけどいる。だって、この人は今までもずっとそうして私たちのそばにいてくれたんだから。そうだよね?」
シャンタルが美しい笑顔を向けると、光は今度はなんだか恥ずかしそうに瞬いたように見えた。
「だから大丈夫、これからだって、その気になればいつでも会えるんだから」
「おまえは、相変わらず能天気だな」
晴れやかに笑うシャンタルに、呆れたようにベルが言う。いつものように。
「でも、そうなのですね」
ミーヤのほんのりと緩めた頬には、微かに涙の痕があった。
「いつも見守ってくださっている。そしてこれからも見守ってくださるということなのですね」
リルがミーヤに寄り添うようにそう言葉を添えた。
「ありがとうございます」
アーダも両手を胸の前に組み、感謝するように軽く頭を下げた。
『お礼を言うのはわたくしの方です』
『こんなに温かい気持ちをもらえるなど思いもしなかった』
白い光が熱を帯びる。その熱がみなにも伝わってきた。
「神とはいつも人のそばにいるもの、か」
トーヤが半分笑みを浮かべるようにしてそう言った。
「けどまあ、その気持ちが迷惑になることもあるってこったな」
「そうだな、今回のマユリアのように」
トーヤに続いていつものようにアランだ。
『マユリアとて人のことを思うあまりのこと』
『そのことだけは分かっていてほしいのです』
『
『マユリアを救ってください』
悲しげな光にトーヤもまたため息をつく。
「まあ、できるだけなんとかする方向で動くよ」
『ありがとう、お願いします』
光はトーヤの声をかけた後、今度は全員に向かってひとしきり強く清らかな光の波を送る。
『温かな心を、愛情を、慈悲の心をありがとう』
『いつまでもわたくしはあなたがたのそばに、共におります』
その言葉を最後に女神シャンタルは去って行った。
「いつもそばにいながら気がついてももらえねえ、神様ってのも孤独な仕事だな」
トーヤがぽつりとそうつぶやいた。
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