6 秘密の花園
アランは元の部屋に残り、シャンタルとベルは当代シャンタルの部屋に隠れ、トーヤはまた違う場所に移動していた。
「ここならほとんど人も来ませんし、来ても隠れる場所もたくさんありますから」
そう言って案内されたのはフウの管理する植物園であった。
「八年前、一度いらっしゃってますでしょ」
「え?」
「ミーヤとフェイと一緒に来られてます」
「よく覚えてるな」
驚くと同時にそうだったとトーヤは思い出す。フェイがトーヤに付いたその日、二人と一緒に宮の中を散策した。その時に客殿からほど近い植物園にも足を伸ばしたのだが、どういう場所かぐるっとひと回りして確認し、すぐに帰った。あの時、中に誰かがいた記憶はないが、フウは入ってきた三人をどこかから見ていたということか。
「そうだったな」
トーヤは青い少女を思い出し、少し胸が苦しくなる。こうならない日は永遠に来ないんだろうな、そんなことも思う。フウはそんなトーヤを見ても特に何か声をかけるでもない。フェイのことは知っているようなのだが、何も言われない方がかえってトーヤにはありがたかった。
「まあ、そのへんで適当にくつろいでくださいな。二人きりですから気を遣うことはありませんよ」
「男女二人きりってのは気を遣うもんなんだけどな、普通は」
「まあ、私を女性と見てくださってありがとうございます。ですが申し訳ありません、私はボスにはとてもそういう感情を持つことができなさそうで」
トーヤはフウの物言いに思わず笑う。
「俺はあんたのことが本気で好きだな、もちろんそれはキリエさんへと同じ好きだけど」
「光栄です、キリエ様と同じだなんて」
その言葉にまたトーヤが笑う。
「とりあえずお世話になります。って、あんたはこのことで立場が悪くなるようなことはないんですか?」
「ないんじゃないですかね。なったとしても特に問題はありませんし」
生涯をここで過ごす侍女にとっては、立場が悪くなるのは大問題な気がするが、フウの場合は本当にそうではなかろうとトーヤはまた一つ小さく笑う。
「ありがとうございます」
「お礼を言っていただくほどのことではありませんが、それより、あのお二人の方がちょっと心配ですね」
もちろん当代シャンタルの部屋に隠れることにしたシャンタルとベルのことだ。
「あんたは何も知らない、それでいってくれと俺は言った」
「ええ、おっしゃってました。ですから私は何も知りません」
「それで、どこからどこまでを話せばいいのかちょっと考えてた。もしかしたら、もう勝手に気がついてるかも知れねえけど」
「そうですね、そうかなと思ってることはあります。でもまあ、勝手に思うのはそれこそ勝手ですし、気になさらなくていいですよ」
どこどこまでもこんな調子のフウにトーヤはなんだかうれしくなる。
「けど、もうちょっとのことだし、あんたにも知っておいてもらった方がいいかもと思うことがある」
「あら、なんでしょう。ボスの判断でそう思われるのなら、承っておきますよ?」
あくまですましてそう言うフウに、やはり笑いが浮かぶしかない。
「おそらくキリエさんはもう分かってる。分かってもらいたくてちょこっと話をした。あの人ならそれで分かってくれるはずだ。というか、なんかもう感づいてた感じだった」
「まあ、さすがキリエ様です!」
フウは感動したかのようにそう言ってぶんぶんと上下に頭を振った。
「全く、あんたの
「それは違いますよ。侍女は神のしもべです。唯一の主はシャンタルとそしてマユリア、その御方に仕えるために信頼できる人の頂点がキリエ様なのです」
「そのへんは俺にはどうでもいいってとあれだが、まあ任せる」
フウが何を言ってもトーヤにはおかしくてたまらない。
「キリエさんにはこう言った。マユリア変わっただろう、キリエさんは何かが違うと思ってるだろうが、間違ってない、当たってるってな」
フウはトーヤの言葉を黙って聞いて考えていたが、何かに気がついたように少し顔を上げると、さすがに表情がきゅっと引き締まった気がする。
「あんたにも分かってもらえたみたいだな」
「さすがにそんなことを考えてもみませんでしたが、そうなんですね」
トーヤはフウも理解してくれたようだと思った。
「それで、ご当代はどこにいらっしゃるのでしょう」
ああ、やっぱり理解している。
「分からん。いるのかもういないのか」
「それは困りましたね」
困ったと言いながら普通に困ったのとは違う、その深刻さと、それからなんだろうか、悲しみか怒りかそんなものがないまぜになったような表情に見えた。
「私はキリエ様を尊敬しています。それは前にも言ったかと思いますが、それはキリエ様が私を理解してくださって、そして生きる道を下さったからです。そのキリエ様が守ろうとしてらっしゃるのは、当代ではないと理解した上で、それでも敵になってまで守ろうとしている方。そう考えると浮かぶお方はただお一人です」
フウはこれまで見たことがない真剣な顔で続けた。
「マユリアの中にいらっしゃる女神、本家のマユリア。そうなんですね」
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