20 トーヤの怒り
「つまり、歴代のシャンタルの中に入ってた魂は、全部人のものだってことか?」
『その通りです』
「その人間がシャンタルに、あんたの入れ物、器に選ばれるってことは、大したことじゃないってことか?」
トーヤが不愉快そうにそう言う。
『そうではありません』
「いや、そういう風におれも聞こえた」
ベルも不愉快そうに言う。
「あんた、前にもあんたのこと受け入れる人のこと、器って言ってたよな。結局たったそんだけのこと、そう思ってるからそう言うんじゃないのか!」
「おい、ちょっとやめろ」
不愉快を通り越し、憤るベルをアランが止める。
「怒るのは話を聞いてからだ。トーヤもトーヤだぜ、ケンカ売るような言い方したら話が進まねえだろうが」
「すまん……」
「とにかく、少し熱くならねえで話を聞こうぜ、な?」
「分かった……」
トーヤとベルがそうして気持ちを収めた。
アラン隊長の面目躍如だ。
『ありがとう』
光が揺れながらアランに降り注ぐ。
『歴代シャンタルが人の生命の種を持つのは、決して軽い役目だからではありません』
ゆっくりと、しっかりと聞いてもらいたいという風に光が丁寧に説明する。
『歴代シャンタルは役目が終わった後、人に、人の世界に戻ります。そのために神の生命の種が入ることはできないのです』
「いや、でも、ベルとフェイには入っただろうが。その言い方聞いてると、まるでこの2人は役目が終わったら人ではなくなる、みたいな言い方に聞こえる」
トーヤがまた厳しい顔で光に言う。
「ああ、そういうことなんだね」
シャンタルが納得したという風にそうつぶやいた。
「何がだ。おまえ、なんで歴代シャンタルには神様の種が入らないか知ってるみたいな言い方だな?」
「いや、違うよ、私がそうなんだと思ったのは別のこと」
シャンタルがトーヤを見上げ、優しく笑った。
「トーヤは、この後のベルがどうなるか心配で仕方がないんだよね?」
「え?」
「もしかしたら、役目を終えたらベルがフェイみたいに連れていかれてしまうんじゃないか、それを心配しているんだよね?」
「おい!」
「え?」
「…………」
シャンタルの言葉にトーヤが慌てて止めるように声をかけ、ベルが思わぬことに驚き、アランは無言でそんな3人を見ていた。
「そうだよね?」
「そうなのか?」
「…………」
シャンタルの言葉を聞き、ベルがトーヤを振り向いて確かめる。
トーヤは答えない。
「一度は機嫌を直してたのに、途中からまた不機嫌になったから、どうしてなのかなって思ってたんだけど、それが心配でそうなってるんだね。よく分かったよ」
シャンタルがいつもと変わらぬ様子で続ける。
「フェイとベルが同じ童子だって聞いてから、なんとなく様子が変わってたんだよ。最初に機嫌が悪かったのはまた別の原因だって分かってるけど、なんでだろうって」
「おい!」
またトーヤがシャンタルの言葉を止める。
「だから、この先ベルにまだ何か役目があるのかってしつこく聞いてたんだね。もしも、その役目が終わったらベルがフェイみたいに連れて行かれるかも知れない、それが怖かったんだ」
もうトーヤは何かを言う気もなくしているように黙ったままだったが、
「あの、そうなの?」
「ああそうだ!」
ベルが問いかけるのをきっかけに、トーヤがブチ切れたようにそう言って光を睨みつけた。
「ベルも、役目が終わったらフェイみたいにこの世から退場させられるってんじゃないだろうな! もしもそうなら、あんたらのお役目なんぞ俺は知らん! どうなるか分からんこの先より、俺にはこの馬鹿の方が何倍も大事だからな! もうフェイの時みたいな思いはたくさんなんだよ!」
誰もがトーヤが不機嫌な理由を知って黙るしかなかった。
そんな中でトーヤが続ける。
「歴代シャンタルの役目ってのは、そりゃ大きいもんだ。何しろ生まれてから二十年もの間、その体をあんたらに取り上げられる、家族から引き離されるんだからな。それはもう大した
「トーヤちょっと落ち着いて」
「うるせえ! 落ち着いてるだろうが!」
トーヤがシャンタルに声を荒げる。
「う~ん、そうは見えないから言ってるんだけど、そういうことではないと思うよ」
「なにがだ!」
「トーヤは、フェイがお役目御免で命を取られたように思ってるみたいだけど、違うから」
「違う?」
「うん、さっきも聞いてたでしょ? フェイは、そういう運命と知って、それでもその体に入って人となる道を選んだんだよ。だから、決してその役目が終わったから命を取られたわけじゃない。感情的になって思い込むのはよくないと思うよ」
シャンタルがいつもの調子で淡々と話すうちに、トーヤも少し落ち着いてきたようだ。
「忌むべき者と一緒だよ。そうなる運命の船に乗ったようなもの、だからベルがそうなると決まったわけじゃない」
シャンタルが真剣な顔でそう語った。
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