2 天罰

「シャンタルを拒否するなんて、そんな方がこの国にいるのでしょうか」

 

 ミーヤが困惑する。


「そんなやついなかったから、それでシャンタルは俺に助けてくれって言いたくない、そう言ったんだよな」

「確かにそうでした」

 

 八年前、自分を取り戻し、そして運命を知ったシャンタルにトーヤに助けを求めるように言ったところ、シャンタルは自分を拒否したトーヤを信用せず、助けを求めたくないと言ったのだ。

 恐れを知らず、死の恐怖を知らなかったシャンタルは、神である自分を拒絶したと聞くトーヤに助けを求めるぐらいなら、湖に沈む道を選ぶとまで言い、ミーヤはキリエと共に、それを必死に説得した。だが、その後に真実を知ったシャンタルは、それでもなお、トーヤが自分のことを嫌っているとして、助けを求めることを頑なに拒み続けた。


「フェイのおかげです」

「そうだったな」


 そんなシャンタルの心を開かせたのが、フェイの魂だった。


「拒否してるだけじゃないですよ、その上シャンタルより強いってんですから、ちょっと信じられない」


 アランの言葉にトーヤもその通りだと思う。


「さっきの魔法だってね、あれ、そうそうやれるやつはいませんよ」

「そうなんですか」


 ミーヤには魔法というものが全く分からない。それは、この国においては触れることがほぼないからだ。


「俺の知る限り、そういうことできるのはシャンタルぐらいです」

「そうなんですか!」


 ミーヤがそれを聞いて驚く。


「ええ、そうなんです。例えば、敵が自分の周囲に入ってこないように、それができるのは時々います。でも、それは入ってこれないようにするだけ、弾き飛ばすだけです。そうしておいて、今度は攻撃魔法で相手を攻撃する。2つの魔法が使えて初めて、そういうことができるんです。えっと、ここまで分かりますか?」

「ええと、なんとなくは」


 ミーヤは頭の中で想像する。


「それは例えば、盾で塞いでおいて槍で攻撃する、というような感じでいいのかしら」

「ええ、そうです」

「なんだ、すげえこと知ってんな」


 横からトーヤが笑いながらそう言う。


「幼い時に読んだ絵本でそのようなことを見たことがあります」

「戦の話か?」

「はい。天の神が戦った時の話でした」

「ああ」


 二千年の長きに渡って戦というものがないこの国だが、確かにその前にはそのような伝説がある。この国では戦はすでに神話の中にしかないことなのだ。


「まあ、そうだな。左手で持った盾で敵の攻撃を防ぎ、隙を狙って右手に持った槍で敵を突く。それを魔法でやる感じだ」

「はい。それならばなんとなく理解出来たとおもいます」

「ええ、それでいいです」


 アランも笑いながらそう答えた。


「けどシャンタルは違う、言ってみればシャンタルが持ってる盾が魔法の盾で、それに槍を突き立てた敵は、自分の攻撃を自分で受けるという感じです」

「自分の攻撃を自分で受ける。それはさっきも言ってましたね、同じことがその人に返ると」

「ええ、そうです。まあ、本当のところは分かりませんが、これまでのあいつを見てきた俺たちにはそう見える、ということです」

「つまり、あいつはその盾を持ってるだけでいい。後は何もしなくても、勝手に敵が自滅してくれるってこった」


 トーヤがアランの説明に補足する。

 

 ミーヤは少しの間2人の説明してくれたことを考えていたようだが、


「なんでしょう、まるで天罰のような」


 と言った。


「今、なんてった?」

「ええ、ですから天罰のようなと」

「なんでそう思った」

「やはり幼い頃に読んだ物語にあったのですが」


 そう言ってミーヤが説明してくれたのは、ある男が天の上にいる神を恨み、傷つけてやろうと弓を射るのだが、その弓は天には届かず、全部落ちてきて自分に刺さった、そういう話だった。


「天罰というのはそのようなことだ、そんなお話だったと思います」

「なんだよそりゃ、まさにシャンタルがやってることじゃねえか」


 トーヤが驚いてそう言い、アランも黙ったまま頷いた。


「そういや、こっち来る途中でそんな話もしたよな」

「ああ」


 トーヤもアランの言葉を思い出す。


『その力ってのは、魔法って呼んでいいもんなのか? なんか、どっちかってと天罰みたいに見えねえこともないよな』


「盗賊に襲われた時のやつだな」

「盗賊!」


 ミーヤがその単語に飛び上がるほど驚く。


「ここへ来る途中でそんなことがあったんですか!」

「ああ、まあ何回かな」

「何回も!」


 ミーヤの顔が真っ青になっている。それはそうだろう、盗賊に襲われるなど、普通の生活をしている人間にとっては、とても恐ろしいことでしかない。それを目の前の2人はさも当然のことのように、さらりと話しているのだから。


「よく無事でしたね」

「あんた、俺らの仕事、なんだか覚えてるか?」

「傭兵ですよ?」


 アランも面白そうにそう付け加える。


「で、でも」

「まあ、どうしてもヤバい時には逃げるとかなんとかするが、旅人を狙おうなんてちゃちい盗賊、俺らにとっちゃ相手にもならねえってか、いい運動不足解消ぐらいの相手だよ」

「その上こちらには神様も付いてますしね」

「全くだ」


 トーヤとアランはそう言って笑うが、ミーヤにはとんでもない話にしか思えなかった。

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