6 ある場所、ある出来事
「まあ、そういうことです」
「分かりました」
実際に経験をしているアランの言葉だけに重みがある。ミーヤも認めざるを得ない。
「まあ、仮定で可能性だ」
トーヤがミーヤの気持ちを落ち着かせるためだけにそう言う。ミーヤにもそれは分かった。
「ええ、仮定で可能性、何事もないと決めつけてはいけませんよね」
「ああ、そういうこった」
「それでだな」
アランがまた妙な方向に進んでもらっては叶わないとばかり、急いで割って入る。
「あると仮定して、それはいつだ?」
「それなんだよな」
トーヤがアランの質問に考える。
「あの湖の底、あそこでは明らかにそいつがいたと俺は思ってる。シャンタルもそいつが手を引っ張ったと認めてるし」
「うん、それはそうだろうな」
「そいつはマユリアの中に潜んで、シャンタルの棺が湖に沈められるのをじっと待ってた」
「それはシャンタルが、もしくはシャンタルの力が欲しかったからだな」
「おそらく」
「ってことはだ、だったらトーヤがいない方が話は簡単だ。つまり、マユリアがトーヤを
アランが考えをまとめる。
「その方が簡単だからな。シャンタルがトーヤに助けを求めないと言ってたら、とっとと棺桶沈めて終わってただろう」
「まあ、そうなるな」
「ってことは、トーヤがここに来た後、湖の前、その間に何かがあった可能性がある」
「さすがアラン」
すぱすぱと話をまとめるアランにトーヤからいつもの言葉が出る。
「何か、何かか……」
「ミーヤさん、何か心当たりがありませんか?」
「え?」
「ミーヤさんは侍女ですから、マユリアの近くにいたと思うんです」
「それは、どうでしょう。私は侍女と言ってもその時にはまだ奥宮への出入りを許されていませんでしたし」
「でもトーヤの世話係になって、マユリアの近くに控えるようになったんですよね」
「ええ」
何かあっただろうかとミーヤが考える。
正直、あの時には何かがあり過ぎて、普通ではないことばかりが続いていた。そんな特別なことがあったとしても、気がついていない可能性もある。
「あの、色んなことがあり過ぎて、どれが一体どう違ったかがすぐには分からないです」
「そうだろうなあ」
トーヤも色々と考えてたらしく、ミーヤの言葉に同意する。
「2人とも、特にマユリア関係に絞って考えてみたらどうかな」
「マユリアに絞ってか」
「マユリアに絞って」
トーヤもミーヤも色々なことを思い出してはみるのだが、マユリアはいつも、何があってもいつもと変わらないようにしか思えない。
「何しろああいう
「ええ、いつも冷静でいらっしゃって、それはもう尊敬に値するお方ですから」
「まあ、シャンタルが自分を沈めろって言った時にはさすがに泣いてたけどな」
「ええ、あんなお姿は初めて拝見いたしました」
「う~ん、でも、それはなんか違う気がするな」
アランが2人の言葉を聞いて考えを整理する。
「その場所はシャンタルの私室だろ? 一番聖なる空間だ。そういう悪いやつが入ろうとしても無理なんじゃねえの? 一応結界が張ってるとか、なんかそういうことあるような気がする」
「まあ、神様が守ってるだろうからな」
「では、違う場所でということになりますか」
「候補としてはそうなるか」
「マユリアが宮以外にいらっしゃったのは、託宣の客人を迎えに行く時にシャンタルの名代としてカースに行かれた時と、そして、あっ!」
ミーヤが何かを思い出した。
「なんかありましたか?」
「ええ、シャンタルからご自分を切り離すために、半月以上を懲罰房でお過ごしになられました」
「あ!」
言われてトーヤも思い出す。
「そういやそうだった。俺は、その期間、マユリアと会うことがなかったんでつい忘れちまう」
「そこ、なんか水音がして昔の侍女の怨念が、とかなんとか言ってた場所だよな、臭くないか?」
「うむ……」
トーヤは懲罰房のあの空気を思い出していた。
「あんたもあそこに入ってたよな」
「はい」
「どう思う?」
「私は、あの水音以外に何も感じることはなかったのですが、セルマ様はとても
「でもミーヤさんは何も感じなかった」
「はい」
「怖くなかったんですか?」
「それは、侍女にだけ聞こえる水音というのは恐ろしかったですが、考え事をしていたらいつの間にか眠っていました」
「あんた、キリエさん並だな」
聞いてトーヤが思わず吹き出す。
「で、ですね」
隊長は路線変更を許さない。
「マユリアは懲罰房のことで何か言ってませんでした?」
「いえ、私は特に何も
ミーヤがあることを思い出した。
「リルから聞いたことがあります。あの、トーヤがシャンタルを追い出した時、あの時にマユリアも影響を受けていらっしゃったそうです」
「あの時か」
「ええ、いきなり倒れられて、リルが急いで中に飛び込んだら大丈夫だとおっしゃったそうなんですが、それがちょうどあのことがあった時でした。原因が分かったので、そのまま忘れていましたが」
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