12 呑気な女神
さて一方、男性であると再確認したアーダが意識を失いそうになっていたその当人は、何があってもいつもの様子でのんびりとカースでの滞在を楽しんでいた。
「おまえはいっつもそうだよな」
ベルが呆れたように言うと、
「ん、何?」
今ではもう黒髪のかつらも、そしてマントのフードも脱いでカースの村長宅でのんびりと寛ぎながらシャンタルが答える。
「それだよそれ、おまえなあ、状況分かってんの?」
「ああ、もうすぐお昼だね。お昼ご飯なにかな」
「ちがうわ!」
そんな2人のやり取りを、ディナが楽しそうに笑いながら見ている。
「まあな、知り合ってすぐからずっとこんな感じだよ」
トーヤもお茶を飲みながらそう言って笑う。
「ほんっとに真剣味ねえったら。いいか、今頃きっとミーヤさんたちは大変なことんなってるぞ」
「え、なんで?」
「あのへんてこな光が色々話せって、そんでアーダとハリオにも説明しなくちゃいけなくなったじゃん。こっちでトーヤがばあちゃんたちに説明するのでも大変だったのにさ」
あの後、トーヤは簡単にしか説明していなかったシャンタル救出の詳細をダルの家族たちに語った。
「本当に信じられないようなこと聞いちまったし、それにうちのダルが関わってたなんてのもねえ」
ため息をついてナスタが言うのに、
「ダルのおかげで随分と楽しいことがいっぱいありました」
「それだよそれ!」
シャンタルが
「なんぼ聞いてもな、八年前、楽しかったーで済まねえんだよ!」
「でも色々話をしてくれたり、アルにも乗せてくれたりしたし。そうだ、トーヤより歌がうまいってほめてもくれたよ」
「ああ、トーヤは歌下手だもん、いで!」
最後のは言うまでもないだろう。
「まあ大変な目に合ってきたんだってことはよく分かったよ。そして、まさかそんな、なんて言うんだい、自分で考えることもできてらっしゃらなかったなんて」
「本当にな。何回もお出まし見に行って、マユリアはもちろん、シャンタルもなんておきれいな方なんだっていっつも思ってたのに」
「ありがとう」
ナスタとダリオの言葉にシャンタルがすましてそう答え、ディナがたまらないという風に吹き出した。
「こうして本人がここにいても大変だったのに、ミーヤさんや兄貴たち、どうやって2人に説明してんだろ」
「そのへんは任せといて大丈夫だろう」
「そうかなあ」
ベルはシャンタルをじっと見ていてますます不安でいっぱいになっている。
「それより、こっちはこっちで動くこと考えねえとな」
「だよなあ。一体どうするつもりだよ」
「まあ、おかげで隠し事がなくなってやりやすくなったとは思うけど、まだ話の続きがあるからな」
「そりゃまそうだよな」
「この間はマユリアが生まれた時のことを聞いた、今度はこいつの話になるだろう」
「うん……」
ベルが深刻な顔でシャンタルを見るが、当人は素知らぬ顔だ。
「かーっ! そういうとこがムカつくんだよ!」
「え、なに?」
「おまえさあ、おまえのことだろ!」
「うん。だけど考えてもしょうがないじゃない?」
「そうだけどさ!」
「まあ、おまえも落ち着け、な?」
トーヤがベルにそう言って落ち着かせるが、ベルはトーヤに心配そうな視線を送る。
「こいつの言う通りだ、考えてもしょうがない。だからそういう話になるだろうって頭に置きながら、他のことを考えるぞ」
「分かったよ」
ベルもしぶしぶ認める。
「とにかく交代の時にはなんとかして宮にいなくちゃなんねえ。封鎖が解けたら多分ここにもルギたちが来るはずだ」
「だろなあ」
「その時にどこでどうしてるかだよな」
「あの洞窟しかないんじゃねえの?」
「封鎖が解けて交代まで大体
「無理だよなあ」
考えるまでもない。
「場合によっちゃあキノスに一時避難も考えた方がよくないか?」
ダリオがトーヤに言う。
「それも考えたんだけどな、もしも交代までにこっちに戻ってこられなくなったらそれは困るんだ」
「そうか、そうだよなあ」
「どこか、村の中で姿隠すようなとこないか?」
「村の中ってもなあ、あるもんは知れてるし、そういう場所はちょっと浮かばないんだが」
「だよなあ、ちょっと浮かばねえようなあ」
サディとダリオがそう言って顔を見合わせる。
「マユリアの海はどうだ」
「え?」
村長がふいにそう言う。
「あそこなら聖地だし、衛士たちもおそらく足を踏み入れることはせんだろう。それに姿を隠すぐらいの場所ならあるぞ」
「そんなとこがあるのか?」
「まあ、あんまり感心できることではないが、あの半島があるだろうが」
「ああ」
カースから外海に向かって細長い半島が伸びていて、その半島に囲まれるようにしてマユリアの海がある。
「あそこならなんとか身を隠せるかも知れん。あまり足を踏み入れてはいかん場所だし、あの先に船をつないでおけば、見つかりそうになっても海に出ればいい」
「なるほど」
「もちろん多少危険はあるが、わしらも漁に出る海じゃし、トーヤはそのぐらいの船は操れるじゃろう」
「ああ、まあな」
そうして、ダリオが半島の先までトーヤの船を持ってきて、つないでおいてもらうことになった。
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