18 ランプの陰にあること
何かは分からないが、フウが話を持ってきたように、なんだかそのことが引っかかる。もしかしたら、このことは思った以上に重要なのかも知れない。
「あのさ」
ベルが思い出したようにフウに尋ねた。
「さっきアーダのこと聞いてきたけどさ、そのこととなんか関係あるのか?」
「あ、そうそう、そうでした! そのこともお話ししなくては!」
フウは顔の前で軽く両手を打ち、うっかりしていたという顔になる。
「何しろおしゃべりが楽しかったもので、つい忘れてしまって。ベルさん、ありがとうございます」
「いや、いいけどさ、楽しかったって……」
さすがのベルもどう答えていいのか分からず、トーヤに軽く眉間にしわを寄せた顔を向けた。
「それで、お話の続きなんですが、その婚姻の儀の時のことなんです。客室係の取りまとめ役から、うちにも誰か人を出してくれないかというお話が来ましたの」
「え、なんで!」
「何しろ珍しいことがあるわけでしょう? それで見学したいというお客様がたくさんいらっしゃって、客室係ではどうも手が足りないらしいのですよ。ちょうど運悪く、客室係の役付きの侍女で、腰痛で動けない人も出ましてね」
フウの説明によると、王族や貴族、地方の有力者などが当日、宮の世話になりたいと連絡を寄越しているらしい。
「常の交代だけでも大変な数のお客様をお迎えするのに、その上にそれでしょう? しかも、前国王陛下がご不明でなんやかんや気をつけないといけないこともあるらしくて、そりゃもうてんてこ舞いなんですよ。うちは幸い結構暇ですし、それでお手伝いすることにしたんです。その報告がまず一つです」
「そうなんですね」
ミーヤは王族や貴族の案内だと聞き、少しだけ顔を曇らせたように見えた。
無理もない。ほんの少し前に尊い方の御子息から、なんともひどい扱いを受けるところだったのだから、恐ろしいとか不快な気持ちがあって当然だろう。
「大丈夫ですよ、ミーヤは取次役、エリス様役、それに月虹隊役の三つも役を持ってますから、あまり大変な方の世話からは外してもらいます。そのあたりは私が現場にいて指揮を取りますので、安心してください。若いかわいいお嬢さんを狼の前に出すわけにはいきませんからね、そういう方の前には熟練の侍女を取り揃える予定です」
「あ、ありがとうございます」
ミーヤはフウの言葉にぎこちなく礼をした。
フウは他のことは何も興味がないような顔をしていてかなりの情報通だ。だから、ミーヤの身に起こったこともどこかから聞いて、そこから本当のことを理解しているのだろう。
「それでここに来たってことなんですか」
「ええ、それももちろん。それからもう一人、アーダ様も客室係に推薦しておきましたから、その報告も兼ねて」
「ええっ、なんで!」
「なんでって、考えてみてくださいな、アーダ様はある意味この宮で一番暇な侍女なんです。エリス様係と月虹隊係ということで、ミーヤ共々ご婚姻関係、交代関係のお役を外されてるでしょう? それに元々は客室係だった方、慣れていらっしゃいます。ですから私たちと一緒に、当日客室係のお手伝いをしてもらうことになりましたので、その報告も一緒にと。ですから、お仲間かどうかも確認したかったというわけです」
なるほど、すでにその準備を整えてから、アーダの立場を確認に来たということか。
「いや、恐れ入った。さすが時期侍女頭候補なだけある」
トーヤが舌を巻いてそう言うと、
「それなんですけどね、ボス。私は侍女頭になりたいなんて思ってもいませんし、多分なることはないのではと思っています」
「でもキリエさんはシャンタルに時期侍女頭候補って言ったんだよな?」
「うん、言ってたね」
シャンタルがベルの質問に答えて認めた。
「それはこの国が今までと同じく平穏に時が続くなら、ではないですかね? おそらく今、この国はこの先どうなるか分からない
フウはドキリとするようなことをさらっと言う。
「そういうわけで、今はそんなことは全く考える必要はないでしょう。今を乗り切ること、そのためにも、キリエ様は私に敵になってくれとおっしゃってるわけですから、こちらは全力で敵という役割を演じることです」
「相変わらずはっきりしてるなあ」
トーヤは思わず苦笑する。
「あんたの言いたいことは分かった、もっともだ。それと、そのランプがない部分ってのについて、何か心当たりはないか?」
「それなんですけどね、いまいちよく分かりません」
トーヤはフウの「いまいち」という庶民らしい言葉に少し笑いながらも、それはかなり深刻だと思う。
「もう一度式次第ってのを教えてくれるか。そこで重要なことってのはランプとそれからなんだった」
「それは
ミーヤが確認するようにそう言った。
「婚姻の儀は二人が夫婦となることを認めてもらうための儀式、一番重要なのはランプよりその署名だよな、だったら」
「そうだな、派手なランプに目が向きがちだが、そっちだな」
トーヤもアランの意見に
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