7 否も応もなく
「なんか、その言い方聞いてると、まるで俺がシャンタリオ人みたいに聞こえるぜ。まあそりゃ、見た目はそう変わりないけどな」
『そうです』
「は?」
『あなたは元々、この神域で生まれるべき魂だったのです』
「はあ?」
さっぱり意味が分からない。
『そしてルークも』
「おいおい、ルークは黒髪黒目じゃなかったぜ? まあ俺は言われてみりゃそういう姿形だが、ルークは違う。ってか、そういやキノスよりあっちはそういうのもいるって話だったよな」
八年前、トーヤはキノスからサガンまではオーサ商会の船で移動したため、結局その2つの街以外の人を見ることはなかった。
『容姿ではなく魂です』
「それもなんか聞いたことある気がするな」
重要なのは魂だと誰かに言われた。
ふとそのことを思い出す。
『砂の数ほどの魂の種の一粒』
さっきもそんな言葉を聞いたとトーヤは黙ったまま思った。
『その一粒があなたです』
「ああ、さようですか」
もう頭が理解しようとしてくれない。
「んで、その一粒ですか、その俺がどうしたっての?」
『こうして帰ってきてくれました、そうしてこの神域を開こうとしてくれています』
もうさっぱり何がなんだか……
『分かりませんか』
光が楽しそうに揺れる。
「ああ、分かんねえな、さっぱり。つまりそれはどういうことなんだ?」
さらに光が揺れる。
『この先はあなた一人に話をすることではないと思います』
「は?」
『他に共に聞く者がいるでしょう』
「って、おい、まさか、他のやつ、誰だか分かんねえけど、続きを聞きたかったらそいつらここに連れて来いってことか? はあ?」
トーヤはムッとした顔になる。
「あのな神様よ、今の状況分かってるか? 俺一人でもここ潜り込むのにかなりかなーり無茶してんだぜ? 誰か連れてくるってのはとっても無理だ。分かるだろ?」
クスクスと笑うように光が細かく震える。
さらにトーヤはムッと、いや、ムカッとした。
『これを』
細かく震える光がくるくると集まるように回転しながら降りてきた。
『手を』
トーヤはムカッ腹を立てながらも、そうするしかないだろうと素直に左手を前に差し出した。
トーヤの掌の上で光がくるくると回ると丸い石に姿を変えた。
「これは……」
まるで御祭神を小さくした丸い石。
トーヤはなんとなくあの石の正体が分かったような気がした。
「あれもそうなんだな。こうしてあんたが作った石だ」
聞いても返事がないことがそうだと言っていることだとトーヤは思った。
「なんでもいいけど、この石持ってりゃそんでいいのか? どうやって使うんだよこれ」
『時が満ちれば分かるでしょう』
「お得意のあれか。何回も聞いたぞそれ」
顔をしかめると光が微かに震えた。
「そんじゃそれまで持ってろってことだな。あんたとはこれっきりか?」
返事はない。
「まあなんでもいい。どうせ必要ならまた呼ばれんだろうが。あんたと話してるとなんか疲れんだよ。昨日はもうぐったりだった」
『なぜそうなるのか心当たりがあるでしょう』
「心当たり?」
ふうむと考えると確かに心当たりがあった。
「あいつとの共鳴もこんな感じだったな。もっともあの時の方がひどかったが」
『あなたはわたくしを信用していません』
「ああ、してないな」
『あなたが受け入れてくれたならそういうことはないのですが』
「受け入れてほしけりゃダチにでもなるこったな」
光が楽しそうにまたたいた。
『また時が満ちたらおいでなさい』
「またここに来いってことかよ」
トーヤはげんなりする。
「まあいいや。毒食らわばなんとやら。そんじゃ今回は帰る、そんでいいんだな?」
そうだという風に光がさざめき、気がつけばトーヤはまた一人、御祭神の前に立っていた。
握っていた左手を開いて見ると、そこにはきちんと丸い石が乗っていた。
目の前の御祭神と見比べる。
そのまま小さくして手の中に収めたかのような石だった。
トーヤはその石を懐にしまうと、外に出て神官に合図をし、いつものように部屋に戻る。
「少しお聞きしたいことができました。それで侍女頭のキリエ様にお時間をいただくことになっているのですが」
と、大人しそうな風情、いかにも「お父上」といった風情で今日の当番の侍女に聞くと、
「はい、また後ほど時間をお知らせに参ります」
そう言って部屋を出ていった。
今はまだ昼過ぎだった。
今日は昼ご飯を食べてから神殿のお迎えが来た。
こんな感じは久しぶりだとトーヤは思い出していた。
息をするのも苦しく、体全体から力が抜けて、立っていることもできなかったあの時のことを。
シャンタルと初めて共鳴を起こした時のことである。
さっきの光が言ったように、あの時はシャンタルに対して不快感と不信感しか持っていなかった。だからあそこまでひどく影響を受けたのだろう。
二回目はあの夢、溺れる夢だ。
あの時は夢の中だったので
そして三回目は自分の中に入ってきたシャンタルを思いきり追い出した。
三回ともはっきり拒否した影響だと今なら分かる。
「それの軽いやつ、船酔いみたいなもんか」
いくら聖なる存在でも、やはりまだトーヤは御祭神に対して不信感を持っていた。
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