15 それぞれの部屋で

「あんたはあたしと一緒だよ」


 ミーヤがそうであったように、ベルはディナの部屋へと通された。


「あの、お邪魔します……」


 ベルが、食事の時のくつろいだ感じとは違い、少し緊張した様子で部屋に入る。


「どうしたんだね」


 ディナがその変化に気がついて笑いながらそう聞く。


「うん、あの、おれ、なんてのかな、女の人の部屋に招待されたの初めてで」

「おや、そうなのかい」

「うん、ずっと兄貴と一緒だったし、それからはトーヤとシャンタルとも一緒だったけど、あの、女の人と一緒に寝るっての母さんが死んでから初めてで」

「そうだったのかい」

「うん」

 

 実際には宮でエリス様の侍女としてそこにアーダが一緒だったことはあるのだが、あれはあくまでエリス様の侍女を演じていたので、また何かちょっと違う感じがしていた。


「そうかい」


 ディナは特に気にすることもなく。


「じゃあ今日は一緒のベッドで寝るかね」


 と、笑ってベルを自分のベッドに座らせた。


「おつかれさん、今日はゆっくりお休み」


 そう言って横になったベルに布団をかけ、小さな子にするように上からとんとんと軽く叩く。

 まるで小さな子どもになったような扱いに、ベルはちょっと気恥ずかしさを感じたのだが、それを深く考える時間もなくすうすうと寝入ってしまった。


 ディナはその姿を優しく見つめると、自分もベルの隣に横になり、一緒に夢の中へと入っていった。




 同じ頃、ダルの部屋ではシャンタルがダルのベッドに横になり、トーヤはトーヤが泊まっていた時と同じように、並べてある補助のベッドに横になる。


「へえ、そうやってベッドを広くしてあるんだね」

「おう、ここもこの形で一人前半の部屋と一緒だ」


 同じような形でも、アルディナの安宿とはやはり意味合いが全然違う。


 八年前、ここでこうしてダルと一緒に横になりながら、


「野郎と同じベッドかよ~つまんねえなあ」


 と言いながらも、ダルとなんやかんや色々と話をしていたことを思い出す。


「楽しかったな」

「え?」

「いや、ここでこうしてダルと話しながら寝てたのがな」

「ああ」


 こうしてこの部屋で寝転んでいると、まるで昨日のことのように思い出す。


「色々あったよな」


 トーヤが誰に聞かせるでもなくそう言ったので、シャンタルも返事をせず、2人とも黙ったままで時間が過ぎていく。




 トーヤたちを部屋に送った後、村長とサディ、ナスタ、ダリオは広間に残っていた。


 食事の後片付けを終え、4人で黙ったまま座っている。

 驚いたまま、何も言えないまま今までの時間を過ごしてしまったが、正直、どう受け止めればいいのかがよく分かっていないような感じだった。


「あの~」


 沈黙に耐えかねたようにダリオが口を開いた。


「なんだい」


 ナスタが答える。


「俺のせい、かな?」

「え?」

「いや」


 ダリオがなんと言っていいのか困ったように、少しうつむきながら続ける。


「俺が、あそこでトーヤたちと会わなかったら、そんで連れてこなかったら、そしたら、今こんなことになっちゃいな――」

「バカ息子!」


 ナスタが思い切りダリオを張り倒した。


「なんだよ、いてえな!」

「おまえは何を言ってるんだよ」

「いや、だって、じいちゃんも父ちゃんも母ちゃんも困った顔してるから」

「困ってるわけじゃないんだよ」

「そうだな」


 サディもナスタの言葉に同意するが、


「けど、困ってるってのもはずれちゃいない」


 と、続けた。


「どっちなんだよ」

「困ってるの意味があんたの言ってるのとは違うってことさ」

「どう違うんだよ」

「分かんない子だねえ」


 ナスタが眉をしかめながらダリオに言う。


「あんたが言ってる困ったは面倒事めんどうごとを持ち込んで困った、そういうこったろ?」

「あ~、そうかな」

「あたしらが困ってるのは、この先どうして差し上げたらいいのか分かんないから困るってんだよ」

「え、そうなのか?」

「ああ、そうだ」


 サディもそう言って頷く。


「だからあんたは自分の責任だって感じなくていいってんだよ」

「母ちゃん」

「聞いてただろ? もう八年前にすでにダルが関わっちまってんだよ、こんな大きな問題にさ。それをあいつ、よくもまあ、あんなとぼけた顔して今まで黙ってられたもんだよ」


 ナスタが怒っているような、それでいて少し誇りに感じたような顔でそう言う。


「じいちゃんもそう思うだろ?」


 ナスタにふいにそう振られて、村長が小さくため息をつく。


「その意味ではわしもディナもダルと同罪か」

「え?」

「わしも、八年前にちょっとトーヤとそういう話をな」

「そうだったのかい」


 ナスタがびっくりしたように言う。


「ばあちゃんはあの方を預かってたから、なんか知ってるかもとは思ったけど、じいちゃんまで」

「封鎖の前日にトーヤがいきなり来ただろうが」

「あ」


 ナスタは言われて思い出した。


「そういやあったね」

「あの時にな、おまえらに話すわけにはいかんが、ちょっと色々と話をした。わしは、思えばあの時から今日のようなことがあることを、なんとなくどこかで分かっていたようにも思う」

「じいちゃん……」


 ふうっと息をつく村長に、3人は何も言えばいいのか分からなくなった。

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