14 マユリアとセルマの想い
『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』
『わたくしはこの神域を開くために命の種を遠くへ飛ばし』
『そして戻ってきた
『黒のシャンタルの救出はその一部』
『助け手に救ってもらいたいのはこの世界の未来です』
「そういや初めて会った時に、ラーラ様に、この世界のためにシャンタルを助けてくれ、そう言われたんだった。いやびびったのなんの」
トーヤが苦笑するようにそう言った。
そうだった。あの時はまだ何も真実を知らず、何が何だかよく分からない中、素直にシャンタルを奥宮から連れ出す手伝いを頼むためにラーラ様に面会を申し入れた。その時のことだ。
「俺みたいな何やってきたか分かんねえような、こんなどうしようもない人間にそんなでかい話、そう言ったらラーラ様はこう言ったんだよ。蝶の羽ばたきが遠いところで嵐になることもある、1人の人間の存在ってのは、そのぐらいでかいもんなんだってな。だから大げさに考えなくても良いのですよ、とか言われたけど、そんなこと言われてそうですかって言える人間はまあいねえよな」
「そりゃそうだ」
アランがトーヤの言葉に笑いながらそう答えた。
「けどな、今ならそのこともなんとなく分かる。俺が今ここにいるのは、そういう小さい奇跡の積み重ねの上だって。ミーヤのおじいさんの大きな木の話のようなこと、おそらく、そういうのがたくさんあって、その結果が今、ここに集まってる人間だ。そういうことなんだよな」
『そう言っていいと思いますよ』
なんとなく光がうれしそうに微笑んだ気がした。
『小さな奇跡の積み重ね、その先に未来がつながっている』
『どれか一つが違えば何かが変わる』
『マユリアはわたくしの行いを正しくはないことだと思ったのです』
『この神域を開くことでこの世界が不幸な未来を迎える』
『その過ちを正さねばと』
『マユリアはわたくしに失望し、自分が新しい神域の神となろうと思ったのです』
「つまり、あんたに成り代わってこの世界の頂点に立つ、それも今度は直接人間を統治する女王となって、そういうこったな」
『マユリアがそう考えたのは、人のことを想う気持ちからなのです』
『二千年前にわたくしがそう想ったように』
『置いていかれる人のために、自らがこの神域を守らねばならない』
『わたくしが人を見捨てるのなら、自分がやらねばならぬと思ってのこと』
『それだけは
どこかで聞いたことのある話のようにミーヤは思った。
「セルマ様」
思わずその名が口からこぼれ出た。
「なんだって?」
「いえ、セルマ様が同じようなことをおっしゃっていたもので」
ミーヤが自分が聞いたことをみなに説明をする。
「つまり、この
「そういうことでいいと思います」
トーヤの言葉にミーヤは苦しそうに
「セルマ様は本当は正義感の強い、ご自分をしっかりとお持ちの方なんです。ですが、神官長に話を聞き、キリエ様に失望なさってあのように」
「石頭のやりそうなこったな」
トーヤの少しからかうような口調に、ミーヤは少しムッとした顔になる。
「おっと、怒るのは後にしてくれ。なるほどな、確かにマユリアと同じ道を通ってんのかも知れねえ」
「じゃあ、セルマのことは神官長がわるいってこと?」
「まあ、この世界に未来がないみたいなことをうまいこと言われたら、そういうこと思い込みかねない人間には見えるな」
トーヤの言葉にベルとアランもそう言う。
『神官長』
セルマについて話していると、光がその名を持ち出した。
『マユリアと、そしてセルマと同じです』
『決して悪い人間ではないのです』
「悪人じゃないかも知れねえが、そんでも裏で糸を引いていろんなことを操ってるのは神官長だろう」
「そのために命を落とした人間が何人もいる」
「おれには悪いおっさんにしか見えないよ」
トーヤとアランとベルが光にそう反論する。
シャンタルは黙って仲間の言葉を聞いているだけだ。やはり心の内はその表情からは分からない。
『そうではないのです』
光が弱々しく否定する。
『神官長は元々は勉学を好み、この世の平安を祈る穏やかな人間なのです』
『それが、身に余る真実を知ってしまい、その重みにつぶされそうになり』
『真実を教えてほしい、そう訴えかけてきました』
『わたくしは神官長の慟哭を聞きながら、答えてやることはできませんでした』
『その深い嘆きと絶望に、マユリアが手を差し伸べたのです』
『同じ道を歩める人と認めて』
「あんたはなんで答えてやらなかったんだ?」
光が戸惑うように弱まった。
『一つは、すでにわたくしの力が弱っていたこと』
「弱っていたって、なんでだ」
『わたくしの半身はすでにマユリアのものとなっておりました』
『肉体は、魂から比べると小さな存在でありながら、それほどの強さを持つ存在なのです』
「つまり、体を持ってるもんの方が魂だけのもんより強いってことか」
トーヤは思わぬ事実に小さくうめいた。
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