11 嘘のつきかた
「へ、俺がですか?」
ミーヤからアーリンと一緒にあの噂を流していたらしい男のことを探ってほしい、そう言われてハリオが目をぱちくりとする。
「はい、お願いできないでしょうか」
「って、えっと船長……」
ハリオが困ったようにディレンを見るが、
「手伝ってやったらどうだ」
「分かりました」
と、船長命令には即答で、力を貸してくれることになった。
「ハリオさんが宮から出られてリュセルスをうろうろできるようになるってことにもなりますね」
「そうだな、少し動きが取りやすくなるかもな。けど、その割にはなんか気にいらないって顔してるな」
「そうですか?」
「何がひっかかる」
「いや、ひっかかるわけじゃないんですよ」
アランが苦笑しながらそう答える。
「ただ、あの光がなんでハリオさんとアーダさんも一緒にあそこに呼んだのかの答えが出たような気がして、なんとなーくね」
「ああ」
言われてみれば確かにそうだった。
「トーヤがよく言ってたんです、そういうことがあるって。そんで、もう慣れたって。俺も慣れたような気がして、それがなんとなーく気にいらねえ、って感じですか」
いつも冷静なアランが心底嫌そうにそう言うのにディレンも苦笑した。
「そういうの承知でトーヤに付いてこっち来たんだし、覚悟の上のつもりだったんです。けど、実際そうなると、なんかなーんかね」
「まあ気持ちはなんとなく分かる。運命とか神様ってのに好き勝手されてるような気がするんだな」
「そうことです。でもまあ、とりあえず、博打の好きな神様との勝負に勝たねえと」
「なんだそりゃ」
「これもトーヤが言ってたんです、あっちはいっつもギリギリの勝負を仕掛けてきてるんだって。こっちもそれに、ああそうなったかって甘く構えてたら勝負に負ける、考えろって」
「ふむ」
「だから、ハリオさんが外出て動きやすくなった、よかったなあ、じゃないんです。これにもきっと何か意味があるはず」
部屋の中がしんと静まる。心なしかハリオの顔色が悪くなったように見える。
「まあな」
ディレンがそんな中で口を開いた。
「確かに考えることは必要だが、とりあえずは今分かってることで判断するしかなかろう」
「それはそうです」
「ってことでだ、ハリオがどうすりゃいいかを考えるか。まず、おまえとアーダさんは何も知らん、それで通す、分かったな」
「分かりました」
「なんか、それが今一番大事な気がする」
「俺もです」
ディレンの予感にアランもうなずく。
そうして、ハリオは何があってもただ好意で月虹隊に力を貸すだけ、それで通すことを決めた。
「ですが、アーダ様は」
ミーヤが心配そうに言う。
「そうですよね、俺らは知らぬ存ぜぬって嘘つけるけど、侍女の人はそれ、むずかしいんですよね」
「はい」
「そんじゃ、次はアーダさんがどうして乗り切れるかを考えますか」
「そうだな」
今、この部屋にいるのはアラン、ディレン、ハリオ、そして当番の侍女ミーヤの4人だ。ダルはアーリンと一緒に月虹兵の控室にいると
「おそらく、キリエ様の様子から何かあるのではないかと思ったのではないかと思います」
「普通の人の顔して、あの人も結構やりますよね。トーヤの話聞いてた時から、ただのいい人じゃないような気はしてましたけど」
「普通の人の顔って」
アランの言い方に張り詰めていたようなハリオが思わず笑った。
「でも、そうですよね、あんな話聞いたらそう思うしかないです」
「そうだな」
「リルさんもすごいし」
「そうだな」
ディレンの答えは言葉が同じでなんとなく響きが違った。
「すごいですよね」
「うむ」
同じ会話が繰り返されたが、もちろんリルのことだ。
「アーダさんがあれぐらいだったらなあ」
「無茶言うな」
「だけど、本当、どうしてあげたらいいのか」
「あの」
ミーヤが思いついたことを言う。
「侍女は確かに嘘はつけません。それで、どうしても言えないことには沈黙を貫くしかないんです」
「そう言ってましたね」
「ええ。八年前に、マユリアやラーラ様、そしてキリエ様もそうして苦しんでいらっしゃいました」
「じゃあ、それでいこうってことですか?」
「そうなんですが」
「うーん、でもなあ」
アランが腕を組んで考える。
「アーダさん、ちょっと気が弱そうだからなあ。それでいけるかなあ」
「そうなんです。それで、ちょっと思いついたことが」
「なんです?」
「アーダ様は何も知らずにエリス様の世話係になられたんです。それがこんなことになってしまって、少し気持ちが不安定になってらっしゃいました。それを逆に利用できないでしょうか」
「逆に利用?」
「はい」
ミーヤが厳しい顔で続ける。
「沈黙を貫くことは難しくとも、
「ああ」
アランも
「なるほど、知らん顔はできなくても、怖がることならやってもらえるかも知れませんね」
「はい」
「それはそれでなかなか難しいかも知れませんが、まだいけるかも」
「はい」
「じゃあ、ミーヤさんが控室に戻ったら、アーダさんにはこっち来てもらってください」
「お願いいたします」
そう話は決まり、アーダも「それならばできるかも」と承諾をした。
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