10 友の大切な人
エリス様は柔らかく微笑むと、視線をベルに投げ、すっとその背後に身を隠すようにした。
「あの、エリス様はあまり人前にお出になることに慣れておられませんので」
ベルは申し訳なさそうにそう言って、シャンタルとラーラ様に頭を下げた。
「本当になんてお美しいのでしょう。これほどお美しい方、マユリア以外にお目にかかったことはありません。ねえ、ラーラ様」
「え?」
「まあ、ラーラ様ったら、そんなに驚かれたの?」
シャンタルはラーラ様がエリス様の美しさに驚いて言葉をなくしていると思ったようだ。
「ありがとうございます。エリス様は少し恥ずかしがっておられるようです」
ベルの背後でエリス様が元のように被り物を直していき、また元通りに梱包されてしまった。
「まあ、なんだかもったいないような気がします、あんなにお美しいのに」
小さなシャンタルがはあっと息を吐き、言葉の通りにもっとエリス様のお顔を見ていたいという気持ちが伝わってくる。
「初めてお目にかかりましたし、今日はこのぐらいで。また今度あらためてお願いいたします」
ベルがシャンタルの素直な言葉に笑いながらそう言った。
「ああ、でもまさかこんなことがあるなんて!」
シャンタルはうっとりするような表情で、手を胸の前で組み、楽しそうにそう言った。
「それで、今日はベルとエリス様はどこでお休みになるの? 明日のお昼はどこに隠れていらっしゃるのかしら? ラーラ様、どうすればいいと思います?」
「そうですね……」
ラーラ様はシャンタルの言葉に考えるようにするが、実はまだ頭も気持ちも整理できず、考えがまとめられずにいた。少し声が上ずっている。
「それを考えていかないといけませんよね。なによりもう遅いですし、シャンタルは早くお休みにならないと。私たちのためにすっかり夜ふかしをさせてしまいました。もうしわけありません」
ベルはそう言って頭を下げると、思いついたというように顔を上げ、こう言った。
「では、私はここでシャンタルと、エリス様はお隣でラーラ様とご一緒ということではどうでしょうか」
「ベルと一緒にここで? ラーラ様どうしましょう!」
シャンタルはワクワクが止まらないという感じで「母」の顔を見上げて聞く。
「シャンタルはベルと、エリス様はわたくしとですか……」
「はい、いかがでしょうか」
ベルはラーラ様の様子を見ながら、ゆっくりと続ける。
「シャンタルはマユリアにおなりになる日のために、今はお一人でお休みになられる練習をなさっているそうですね」
「ええ、そうなの。アランから聞いたのかしら?」
「いえ、兄はシャンタルからのお手紙のことはほとんど教えてくれません。友達からの手紙を他の人に見せるわけにはいかないと申しますので、聞いてはおりませんでした。宮の中のお話で知ったのです」
「まあ、そうなのね」
シャンタルはアランが自分からの手紙を大事にしてくれているようで、なんだかうれしくなった。
「はい、そうなのです。それで兄にそのことを知っているかと尋ねましたら、確かにそのようには書いていらっしゃったと。それで今回の隠れ場所を考える時に、シャンタルにお願いできないだろうかとルークが申したのです」
「そうだったのね」
「大変ご迷惑をおかけすることは分かっておりましたが、兄が手紙に書いたような事情で、どうしてもお助け頂きたかったのです。申し訳ありません」
ベルがそう言って頭を下げると、小さなシャンタルがそっとベルの肩に手を置いた。
「エリス様はお友達の大切になさっている方、そしてベルはお友達の妹ですもの。できることはして差し上げたいわ」
「ありがとうございます」
ベルはそう言って深く頭を下げた。
「ですから、エリス様と私がお隣のお部屋をお借りするのが本当だとは分かっているのですが、シャンタルはがんばって一人でお休みになる練習中、ラーラ様をこちらにお戻しするのはそのお邪魔になるかと思います。かといってこちらにシャンタル一人お残しして、あちらにラーラ様と共に下がらせていただくのも申し訳ない。それでもしもよろしければ、私がこちらのお部屋に残していただこうかと思いました。寝台の足元でも、部屋の隅でも構いません、お邪魔にならないようにいたしますので」
「まあ、そんなこと!」
シャンタルが驚いて目を丸くする。
「ベルはお友達の妹でしょ、一緒に休みましょう。わたくしもその方が楽しいわ」
「いえ、そんなこと! シャンタルとご一緒させていただくなんて、私のような
「ベルはお友達の妹でしょ、だったらベルもわたくしのお友達だわ。ねえラーラ様、構いませんよね?」
「それは……」
ラーラ様はシャンタルに聞かれて答えに困る。ベルが本当にただの侍女だとしても、そのただの侍女を神の寝所で共に休ませるなどとても許されることとは思えない。それにそれだけではない。今はもうラーラ様も知ってしまっている、エリス様と呼ばれる方は黒のシャンタルだと。
一体自分はどう答えればいいのだろう。ラーラ様は何も言えず、ただじっとエリス様とベルを見つめるだけだ。
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