17 糸の端
「ってことはだ」
ダリオが生真面目な顔で考えながら言う。
その横顔を見ながらトーヤは、やっぱりダルとも似てるよなと考えていた。
ダルはひょろっと細長く、恥ずかしがりで、少し自信なさげに誰かの後からついていきそうに見えるが、長兄のダナン、次兄のダリオ、どちらもがっしりとして
特にこのダナンはもう30歳になった今でも、母のナスタに張り倒されながらも、ふらふらと夜の街などに遊びに行っては、翌朝ぺろっと舌などを出しながら帰ってくる生活を続けているらしい。八年前にカースに出入りしていた時にも、確かに一番そういうことをしそうには見えていた。そんな部分は根無し草の自分とも似てるようにトーヤは思ったものだが、こうして見ていると、やはりダルとも似ているらしいのがなんとなく不思議に思えた。
「そのマユリアの糸を受け取った後、シャンタルはもう一度その糸を今度は当代に渡さなきゃいけないんだよな?」
「そう、その通り」
自分の考えから現実に戻ってトーヤが答える。
「マユリアはご存知のこととして、当代はご存知ないんだよな?」
「ああ」
「驚かれるだろうな」
「だろうな」
「それ、どうするつもりなんだよ」
「まあ、なんとかなるだろう」
「おい」
「まあな、しゃあないんだよ、そう思ってるしかさ」
「いや、そりゃまそうかも知れんけどよ」
ダリオはトーヤの気楽な様子に驚く。
「ダルの兄貴さん」
「え、な、なに?」
ベルに突然話しかけられ、ダリオがちょっと驚いて返事をした。
「トーヤさ、こんなやつなんでいいかげんに見えるけど、実際いいかげんなやつなんだけどさ、けど、このことだけは本当にしゃあないんだよ」
「おまえ!」
「あでっ!」
一応トーヤのことを弁護してやってるつもりなのにはたかれ、ベルがいつものようにギッと
「なんだよ」
「いや、いいよ」
ベルがそれだけ言ってやめてしまうのでトーヤも戸惑うが、それも無視してベルがもう一度ダリオに向かう。
「おれも最初聞いた時はそんなことあるのかなって思ってたけどさ、こっち来てみて分かったんだよ、トーヤはなんでか知らないけど神様に選ばれて、そんでそういうことしてる。だから、トーヤが考える通りにおれと兄貴もついてくしかないんだよ。何がどうなってんのかさっぱりわかんねえんだけど、シャンタルを人に戻して、そんでシャンタルの家族にもみんなに幸せになってもらうには、それしかないみたいなんだよ」
「シャンタルの家族?」
「うん、マユリアやラーラ様や、当代や、そんでこれから生まれてくる次代様」
「そ、そうなの?」
ダリオたちシャンタリオの民にとってはシャンタルやマユリアは神だ。その神たちが家族である、そんなことは考えたこともなかったもので、ベルに言われてそうなのかと認識はしたものの、まだ本当の意味では受け止め兼ねている、そんな表情であった。
「シャンタルの家族に幸せになってもらうって、それにはどうするつもりなんだい?」
家族の幸せという言葉に反応してナスタが聞く。
「それは本人に聞いてみないと分からないと思うよ」
「御本人に聞いてみる?」
「うん」
あまりにあっさりとベルが「聞いてみる」と言うもので、それにもまたナスタがどう考えていいのか迷う。
「おいおい、おふくろさんも兄貴さんも、なんて顔してんだよ」
トーヤが楽しそうに笑いながらそう言う。
「もうシャンタルには慣れたと思ったのに、マユリアたちがその家族って聞いてまたびびっちまうなんてな」
「いや、そう言われてもなあ」
ダリオが照れくさそうに頭をかきながらそう答える。
「まあ、気持ちは分からんでもないさ。目の前のシャンタルと、宮にいるシャンタルたちはまた話が別みたいな気がしてんだろ?」
「まあな、そういうこった」
「まったくね、なんてこった……」
これはナスタの正直な気持ちだ。
「まあ慣れてくれよ」
「それしかないよね」
ナスタが仕方がないだろうという風に認める。
サディや村長、その妻のディナも口を開くことはないが、同じ表情でじっと手元やどこかを見つめている。そうするしかないのだろう。
「だからな、そのために、きちんと交代を完了して糸の受け渡しを終わらせるためにここに戻ってきた。そしてその
トーヤの言葉にダルの家族たちはすっかり黙り込んでしまった。
「本当に面倒なことに巻き込んだと思っています。すみません。だけど、できれば手を貸してほしい。頼みます」
トーヤがそう言って頭を下げると、横でシャンタルも静かに頭を下げ、ベルもそれに続いた。
「それでいくと」
村長がかすれる声で言葉を絞り出す。
「おまえはこの国の人間ではないからの、巻き込まれたのはどちらかというとおまえの方だと思う。わしらの方こそ、この国のために、この国の民のためにありがとう、よろしく頼む」
村長がそう言って深々と頭を下げると、急いでサディ、ナスタ、ダリオが続けて頭を下げ、最後にディナが、
「よろしくお願いします」
と言って丁寧に頭を下げた。
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