16 割り込み
「ルギもあの洞窟のことを知ってるってのは分かったよ。そんで、あたしらにもそれを知ってどうしろって言うんだい?」
ナスタの言葉にトーヤがふっと顔を上げた。
「ああ、それだったよな」
ルギの動きのことは今考えてもどうなることでもない。
(今はとりあえず、マユリアがあそこをどうしろと言わない、それを前提に考えるしかない)
「で、話はどこまでいったっけかな?」
「うん、交代にその」
ダリオが一瞬だけ言葉を止めて、
「その、そこのシャンタルを、それに割り込ませるってそこまで聞いた」
「そうだったな」
そうだ、交代の後のことを伝えるのに洞窟の話をしたのだった。
「最初の予定では、宮に潜り込んでおいて、さっと交代済ませてさっとあそこを通って逃げる予定だった。けど、今はここに、カースにいることになっちまってるからな。だから、交代の日までにもう一度宮へ行かなきゃなんねえ」
「それなんだけどね、なんで割り込ませるなんてことしなくちゃいけないんだい?」
ナスタが素直に疑問を口にした。
「それな」
トーヤが少しいたずらっぽく笑って続ける。
「こいつの中にまだ神様が残ってるからだよ」
「ええっ!」
そりゃびっくりするわな、とベルが心の中で思う。
「え、だって、交代は終わって、そんで次代様が今のシャンタルになられて、そんで、そんで」
「兄貴、ちょい落ち着いて聞いてくれ」
動揺するダリオにトーヤが声をかけて落ち着かせる。
「そのへんを説明するから、まあ落ち着けって」
まだいたずらっぽい顔のままのトーヤを見て、ベルがしょうがないな、という風にハッと息を吐いた。
あの時、その話を聞いた時に自分があれだけ驚いたこと、それがトーヤを面白がらせていたんだろうな、そう思うとなんとなくムッとしたからだ。
「ん? なんだよ?」
「なんでもねえよ」
ベルが不服そうな顔をしてるのに気がついてトーヤが声をかけるが、今は話を進めるのが先だ。
いつもだったら何かつっこんで話がそれてもアランが止めてくれていたが、今はいない。
(おれが我慢するしかねえだろうが、こんなガキみてえなおっさん相手によ!)
ベルがそう考えながらも口をつぐむと、
「ベルはいつもいい子だよね」
そう言ってシャンタルが笑いながら、よしよし、と頭を撫でた。
「なんだよ、おまえら」
「なんでもねえよ! いいからとっとと話を進めろって!」
「うん? そ、そうか、まあそうするけどよ」
トーヤもいつもとちょっと違う話の流れに少しばかり戸惑いを感じる。
「まあな、まだこいつん中に神様が残ってるんだよ」
「でも交代の儀式は終わったんだろ?」
「そうなんだけどな、その後をよく思い出してくれよ」
「その後って、その翌日、マユリアとの交代の前に先代は亡くなられて、それでマユリアがそのまま続けて残られるって話だった」
妻と子に変わって今度はサディがトーヤと話をする。
「うん、それなんだけど、なんでマユリアが残った?」
「そりゃおまえ、次のマユリアになるはずの方が亡くなった、と俺らは聞いてたからな」
「うん、けど、実際は生きてた。生きてこの国から出た。ってことは?」
「ことは?」
言われてもサディにはピンとこないようだ。
「マユリアの交代ってのはな、今度はこいつの中にマユリアの中の女神マユリアを移すってことなんだよ」
「あ、ああ、そうなんだろうな」
「そのことをな、マユリアやラーラ様はこう言ってた。ずっと続いてきた糸を受け渡すんだって」
「糸?」
「なんか、俺にもよく分からんが、そうやって受け取った糸を次に渡して、そんでずっとつながってるらしい」
「つながってる」
「そうか、言われてみりゃそういうことになるのかな」
ダリオがなんとなくつながるという意味を分かったようだ。
「そうそう。この村だってじいさんがいて、親父さんがいて、そんで兄貴たちやダルがいるだろ? 親子って関係でつながってるけど、シャンタルやマユリアは女神様が持ってるその糸を次のやつに渡すことでつながってるってことらしい」
「なるほど」
サディにもやっとなんとなく理解できたようだ。
「で、本当なら、こいつがマユリアの糸を受け取った後、マユリアはその糸を離して人に戻ってたはずだった。けど、それができなかっただろ?」
「そうなるな」
「ってことは、糸の端はどうなってる?」
「糸の端……」
すぐには返事ができずダルの家族たちは少し黙って考える。
「つまりあれかい」
ナスタがやっと続けた。
「その糸の端っての、そこのシャンタルもまだ握ってるってことになるのかい?」
「ご明答」
トーヤがパチパチと手を叩いて称える。
「で、マユリアはまだマユリアの糸を持ったまま、まだ誰にも渡してないってことなんだね?」
「そういうこと」
「だから、間にそこのシャンタルを割り込ませて、マユリアの糸を受け取った後、シャンタルの糸を離さないときちんと交代ができなくなるってことか」
「そうそう、そうなんだよ」
うんうん、と頷いた後、
「もしもマユリアの交代を済ませた後でこいつが死んだことにしたら、この国にはマユリアがいなくなっちまってたからな。だから仕方がなかったんだ」
そう言ってトーヤがまとめた。
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