16 アーダの立場
一部のあることを知る者以外は、それぞれに不安を感じながらも、ただただ忙しく過ぎるだけの日々。そんなある日、ひょこっとある人が公式には「エリス様ご一行の部屋」となっている客室に顔を出した。
「こんにちは、お元気でいらっしゃいますか?」
フウだ。
「おう、お久しぶり」
トーヤも上機嫌でフウを出迎える。
「お変わりなさそうで安心しました、ボス」
フウは招き入れられるとトーヤにすすめられてソファに腰をかける。ミーヤがお茶とお菓子を運んできた。今、アーダは月虹兵の用事でその控室の方にいる。もしかしたらフウはその時間を狙って来たのかも知れない。
「そういえば、一つお伺いしておかないといけないことがあるのを思い出しました」
「なんです?」
「この部屋のもう一人の担当の侍女、アーダ様はこちらのお仲間なんでしょうか?」
なるほど、それを確認したくてこの時間に来たようだ。
「どう思います? あんたの目にアーダは俺らの仲間に見えるのか、それとも関係のないただの侍女なのか」
「そうですねえ」
フウはトーヤに試されるのが楽しいようで、わざとのようにお大げさに、うーんと首を
「お仲間であってくれた方が色々と楽ですね」
「なるほど、確かに楽だ」
「でもまあ、それは私の気持ちの問題です。ですが、それを抜きにしてもお仲間だと考えた方が自然には思います」
「ほほう、それはなんで?」
「そうですね、まずはハリオさんがこちらのお仲間だったことですが、私がこの部屋に来てすぐに、ハリオさんはなんとも修行の足りない姿を見せて教えてくださいましたでしょ?」
「ああ」
トーヤが思い出して思わず笑ってしまう。フウが「自分は味方だと」と言ってこの部屋に来て一番最初にあった出来事だ。
「あの時、ボスたちのことを口にしたらハリオさんはひどく驚かれて、ご自分から味方だとばらしてしまいました。ハリオさんはまあ、ディレン船長の部下で大きな海を超えてこちらに一緒にいらっしゃった方、共にした時間も長いし、距離も近い。そういうこともあるだろうと思ってああ言ってみたんですが、やはりアーダ様の前ではそう
「なるほど、そういうこともあるかも知れない」
「そうでしょう? 私はアーダ様とはほとんど接点がないもので、確かめる機会がありませんでした。それで仕方なく、今回は素直に伺おうと思ったんです。分からないけど、なんとなくお仲間な気はします。ですがそれは、さっきも言ったようにそうであればいいなという気持ちの問題で、事実ではありません」
フウの言い方は持って回ったようで、実は非常に論理的だ。つまり、分からないから勝手に自分の勘で判断するということはしない。
「なるほど分かった。じゃあこっちからも一つ質問」
「なんでしょう?」
「キリエさんはアーダのことをどう思ってると思う? 俺たちの仲間だと思ってるかな?」
「思っていらっしゃらないでしょうね」
「へえ、それはなんで?」
「それはもちろん、今の立場的に私に分からないことをキリエ様が分かってらっしゃるとは思えないからです。むしろ、侍女頭としてアーダ様はご存じないだろうと思ってるのではないですか? そもそもアーダ様は客室係としてエリス様ご一行の担当になっただけ。仲間になる必要はありませんでしょう? なるとしたら、何か理由があるはずです。その何かの理由が思い当たらなかったもので、私も一度聞いて確認しておく必要があるなと思ったわけですから、キリエ様はご存じないと考えるのが自然ではないかと」
フウの考えはどこまでもこんな感じだ。感情や感覚ではなく、あくまで論理的に理解できることしか事実として受け止めることはしない。
「いや、まいった。あんたが思ってるようにアーダは俺らの仲間と言っていいと思う。そしてそれにはあることがあったからだが、それは今、あんたには言えない」
「それだけ分かれば結構です。そのあること、もしも話す必要がないと判断なさったらお聞きすることはしません」
「助かるよ」
そこでアーダの話は終わった。フウも、そしてトーヤもそのことをそれ以上深く掘り下げることはしなかった。
「それで、アーダのことと何か関係があることがあったから、あんたはここに来た、そうなのかな?」
「ええ、そうなんです。アーダ様というより、侍女に関係のあることですか」
「ほう」
もしかしたらフウは何か大事な情報を持ってきてくれたのかも知れない。
「マユリアの御婚儀に、婚姻のランプをお使いにならないようです」
「えっ?」
ミーヤが驚いて声を出すが、この国の者ではないトーヤ、アラン、ベルには何のことだかさっぱり分からない。
「婚姻のランプって、結婚式の時に火を入れる誓いのランプのことだよね?」
「あら、ご存知でいらした」
フウがシャンタルの言葉に少し驚く。
「てっきりご先代はそのようなことはご存知ではないかと思っていました。何しろずっと眠ってらっしゃいましたし」
フウはやはり事実だけをそうやって突きつける。
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