2 二人の忌むべき者
『神とは、特定の人に特別の加護を与えるものではありません』
『わたくしはもちろんトーヤにも加護を与えてはおります』
『ですがそれは他の者たちと同じだけの加護』
『トーヤの言う通り、今までのことは全てトーヤが自分の力で乗り越えてきたこと』
『嵐の海で生き残ったことも、全てトーヤ本人の力です』
「ありがたいこった、こうして女神様にお墨付きいただけて」
「でもさ、だったらシャンタルの託宣ってのおかしくないか?」
ベルがなんとなく腑に落ちないという顔でそう言う。
「そのままだったら不幸になる人を助けるためにするんだろ? だったらそういう人のことも自分でなんとかするように黙って見てるもんじゃねえの?」
『童子』
光がまた微笑むように光った。
『
『例えば起こるはずがなかった山崩れから村を守るために木を植える』
『そのようなことなのです』
「やっぱりあの大きな木はミーヤさんを守るためだったんだ! そんでそれは山崩れを起こされるって分かったからか!」
光はベルの言葉には答えず、弱く瞬いた。悲しみが
「あんたは、そうやって今回のことに関係する人間を陰ながら守ってきたが、それはその人間をひいきするってことじゃなく、正しい道に戻すためだったっていうことか。ないはずだったか悲劇から守るだけ、それ以上になるように手は貸してない。それも運命ってのを歪めることになるからだ」
『そう思ってもらっていいと思います』
「悲しいな、あんたの分身と言っていい侍女のマユリアがそんなことするなんてな。というか、やっぱり神様ってのはそういうことができる力があるんだな」
「ミーヤさんがシャンタルを助けられないように、まずそのおじいさんからどうにかする。そんなことができるのはやっぱり、ってことで敵の正体には気がつけたけど、なんだかなあ」
「え、なんだいそれは!」
トーヤとアランの会話にナスタが驚いて大きな声を出した。「大きな木の話」を知らない者たちにはもちろん、驚くような話だろう。
「おっかさん、またダルに話しておくから後で聞いてくれ。とにかく、今度のことは今だけのことじゃねえ、もっともっと大昔、千年も二千年も前からつながってるんだってことだけ今は分かってくれ」
「分かったよ、またダルから聞く」
「うん、頼む。他のみんなにも後で聞いてもらうようにするから」
「分かったわ。ダル、ちゃんと聞いておいてね」
「わ、分かった」
「こっちのおっかさんもやっぱ強いな、頼りがいがある」
こんな時でもダルに注意することを忘れないリルに、トーヤが少しだけホッとしたように笑った。
「神様がえこひいきする存在ではないってことは分かりました。じゃあ、あれってどうなるんです。トーヤがそうだと言われた『忌むべき者』ってのは」
アランがいつものように冷静に新しい疑問を投げかける。
「トーヤと、そしてもう一人いますよね、この宮の中に」
「ルギじゃな」
「そうです」
村長の言葉にアランが頷く。
「えっと、また俺の知らない言葉が出てきたんですが」
「ハリオさんにはまた後で船長から話してもらっていいですか?」
「ああ、分かった」
ディレンにはルギのことを話してあった。
「アーダ様には私からお話しいたします」
「はい……」
ミーヤの言葉にアーダがまた少し顔色を薄くして頷いた。
『忌むべき者』
『人の世でそう呼ばれることになったことは理解はできますが』
『悲しい響きだと思います』
また光がさびしく光る。
『すべての人にはその人が持つ使命がある』
『ですがその使命に気づかぬままにその生を終えてしまう人もいる』
『そのためにその運命を知らせるために知らせていたそのことが』
『いつの間にかそのように呼ばれるようになってしまった』
「そりゃあんたらと人との感覚が違うからだろうな。考えてもみろよ、俺はまだしもルギの場合は過酷すぎるぜ?」
「そうだな、俺もそう思う。トーヤだって大概だけどな」
トーヤの言葉にアランも同意した。
「そういや残された1人じゃねえけど、今にして思えばアランとベルだって同じようなもんだ。もしかしたら、そのためにそういう道を進ませられたんじゃねえの?」
「へ?」
トーヤの声にベルがすっぽ抜けたような声を出した。
「そうか。おまえだって童子ってやつだからな。ここに来る道が決まってたなら、そういう可能性もあるってことだ」
「そういうことだな。俺とルギ、それからアランとベルだけじゃねえ。ここにいるみんなは同じように守られてここにいる。単に忌むべき者って呼ばれなかっただけで、結局同じこった」
いつものようにトーヤとアランで話をすり合わせていくと、どうやら結論はそういうことになりそうだ。
「おれ、おれが童子だから父さんと母さんとスレイ兄さんは死んだってこと?」
「いやいや、違うからな!」
アランが急いで妹に声をかける。
「シャンタルも言ってただろうが、そのためにそういう場所にその人間を置いてるって」
「そうだよ、ベルが童子なこととは関係がない」
シャンタルもそう言ってベルの考えを否定した。
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