20 永遠
「第三の可能性……」
「そうだ。ハリオさんが言う通り、マユリア自身がこの国を見守りたい、そう思っている可能性だ」
「確かにそれならマユリアがお考えになってもおかしくはないわね」
「ええ、マユリアは常にこの国の、民のことを一番にお考えです」
「まさに神のようなお方だもの、そう思ってらっしゃるなら不思議でもなんでもない」
「そうだよな、そう思われてる可能性はありそうだ」
トーヤがそう言い換えたことで、他の者にもなんとなく納得できたようだ。
「マユリアが神として、そして女王として永遠にこの国を見守ってくださる。もしも、そんなことが叶うのなら、それはなんと素晴らしいことなのでしょう……」
アーダが小さくポツリとつぶやいた。
アランが隣に並んでいるアーダを見ると、その顔はやや紅潮し、瞳は希望に輝いているように見える。
「同じだ」
「え?」
アランの声にアーダが夢の中から引き戻されたようにそう答える。
「神官長が今のマユリアに期待していることと」
アーダはアランに神官長と同じと言われたことで、戸惑いを顔に乗せた。
「そんな顔しなくても」
アランはアーダの表情を見ると、そう言って軽く吹き出した。
「だけどそうなんですよ、同じなんです」
アランがもう一度そう言うので、アーダはさらに困ったような顔になった。
「確かにそう言われてそう思うやつも多いだろう。あんたはどう思う?」
「え?」
いきなりトーヤに聞かれて、ミーヤが戸惑いながら考えた。
「それは、やはりマユリアがずっとお守りくださるのなら、そんな素晴らしいことはないだろうと」
「そうか。じゃあリルはどうだ?」
「え? そりゃ、もちろん素晴らしいことだと思うけど、でも」
3人の侍女のうち、リルだけが少し言葉を濁す。
「でも、なんだ?」
「マユリアにだって寿命というものがおありでしょう、永遠になんてことは無理ではないかしら」
「さすがリルだ」
トーヤはリルの言葉に明るく笑う。
「だけどマユリアはそれができると思ってる。もしも永遠が可能ならどうだ?」
「それは……」
リルは少しだけ考えて続けた。
「もしも、本当に永遠にマユリアがお守りくださるのなら、やっぱり私も素晴らしいことだと思うわ」
「そうだな、本当にそんな夢みたいなことができるなら、俺だってそういう国に住んでみたいと思わないこともない。けどそれは、こいつと、こいつの命と引換えだ。そんなことは許せるはずがねえ」
トーヤにそう言われて3人の侍女が驚いた顔でシャンタルに目を向けた。
「そんなつもりではありませんでした!」
アーダが唇を震わせて涙ぐんでいる。
「落ち着いて。誰もアーダさんがそんなことを考えてるなんて思ってませんから」
アーダはアランの言葉に励まされたのか、目を閉じて軽く頭を上下に振った。
「もちろんあんたがそんなことを考えてるなんてことも思ってねえからな」
「思うはずがないでしょう……」
トーヤの言葉にミーヤも小さくそう答える。
「もちろん私もそんなこと思ってもみませんから」
「大丈夫だよ」
リルにはダルが答えた。
「つまり、それがどんだけきれいに描かれた絵だとしても、そういうことをさせるわけにはいかねえ、そういうことだ」
トーヤの言葉に誰も何も言えなかった。
「まさか、そんなことの上にあのお姿があるなんて……」
アーダが王座に座る美しき女神の姿を思い出し、両手で顔を覆ってしまった。
「確認しときたいんだがな、マユリアがシャンタルの力を取り込んだら、本当に永遠に生き続けられんのか? 永遠は無理だとしても、たとえばあんたが作ったここぐらい、二千年ぐらいとか」
トーヤが光にそう聞いた。
『これを』
光は言葉ではなく他のことで答えを示そうとしているようだ。
光が指し示したのはさきほどの女王の姿。その足元にはシャンタルが倒れている。
「さっきのだよな、これがどうした」
正直、二度と見たくはない光景だったが、光がさらにその絵を広く照らすと、全員が思わず言葉を失った。
女王マユリアの足元、シャンタルが倒れているその向こうには、血だと思われる赤黒い液体が広く流れ始めたからだ。
「これは、一体どういうことになるんだ……」
トーヤが息を飲みながらそう言った。
『時の流れです』
目の前で情景が変わっていく。女王の足元の血はますます広がり、だがその上で女王は変わらず美しい笑みを浮かべ続けている。
「つまり、女王の座を守るためにもっと多くの血が流れ続ける、そういうことですか?」
アランが冷静にそう聞いた。
『その通りです』
「一体どうしてこんなことに……」
ミーヤが小さくそうつぶやいた。
目の前にさらに情景が広がる。
「ルギ……」
思わずトーヤの口からその名がこぼれた。
美しき女王のやや後ろに、白に金の飾りのある上級衛士のチュニックを着、その手にマユリアから授けられた剣を握って立つルギの姿が見えてきた。
その剣、女神から与えられた美しい忠誠の剣の刀身は、黒く血の色に染まっていた。
『これが何年先の情景かまでは分かりません』
『ですが力を手に入れたマユリアと共に、忠実なる衛士は生き続けることになるでしょう』
永遠とは、果たしてどれほどの年月のことを指すのだろう。
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