13 勝者はいない
「ですから、付くなら息子側ですよ、それしかない」
「ええ。そもそもそのために裏で協力をしていたのだと思っていました」
「俺もです」
「そうだな、それが普通だな」
キリエの言葉にアランとディレンもそう答える。ミーヤも心の中でそうなのだろうと考えていた。
「だからですね、やっぱり何度考えても分かりません。もっとも、今のことを
アランの言葉にキリエが少し考えて、
「他の者の仕業ということも考えられると思いますか?」
と聞くと、アランも少し考えて、
「考えにくいでしょうね」
と、答えた。
「最も、俺らが知らないこの国の事情というものもあります。もしかして父親と息子の両方が消えてくれたら得する人間っていますか? 例えば国王の弟が王座に座ることができるとか、もしくは王さまの奥さんが女王になるとか」
「ありえません」
キリエが即答する。
「もしも前国王陛下、現国王陛下のご両名に何かがあったとしても、まだ年若くあられますがすでに皇太子殿下がおられますし、その下にも2名の王子様がいらっしゃいます。王弟殿下やその他の王族の方が王座を横取りするなどできようはずもありません。皇后陛下や皇太后陛下はそもそ王位継承権をお持ちではありません」
「なるほど」
ということは、王座争奪のために相打ちにして
「若い皇太子の後見になって、それで実権を握ろうという人は?」
ディレンが聞く。
「実権を握って何をどうしようとするのか分かりませんが、そもそもこの国は女神シャンタルが
「ですよねえ」
想像していた答えにアランが苦笑する。
「この国はそこがちょっとばかり他の国とは違うんですよね。何をやるにもまずシャンタルだ。もしもそれがなかったら、幼い皇太子の祖父とか伯父とかが実質乗っ取りってのはありえる話なんですけどね」
「そうだな、それは結構よく聞く話だ」
「そうなのですか」
アランとディレンの答えにキリエが驚いた顔になる。
「キリエさんがそんな顔するほど、そのぐらいこの国じゃあないこと、ってことになるんですね」
「そうだな」
思わずアランとディレンがそう言って笑い、
「まあ」
と、キリエも笑ったのでミーヤもつられて少しばかり笑ってしまい、
「でも本当に外の国ではそういうことがあるんですね」
と口に出す。
「そうなんですよ。大きい国から小さい国からいっぱいあって、国同士のぶつかり合いもあれば、そういうことで国の中で戦になるってこともある。だから俺らのような傭兵なんてのが食ってく道もあるんですけどね」
アランが笑いながらそう言った言葉に、キリエもミーヤも笑いを消した。
「そうなんですね……」
一体何を考えたのか、ミーヤが一言そう言って黙り込んだ。
アランがミーヤの表情を読む。
誰のことを考えてのことか、なんとなく推測がついた。
「でもまあ、あれですよ」
空気を変えるように明るい調子でアランが言う。
「なんにしても今は元気にこっちにあいつも連れてこられましたし、心配はないです、ええ」
何が心配がないのか。もしかすると今度のことが終わるとまた自分たちは戦場に戻るかも知れないのに。それをよく分かりながら、それでもアランはそう言いたかった、言ってあげたいと思った。
「ええ……」
ミーヤもなんとなくそう単純なことではないと思いながらも、短くそうとだけ答えた。
今、この国の行く末が変わろうとしている。もしかしたら、これからこの国もそういう運命を辿る可能性があるのだ。
もしも、これまでこの国を、神域を守ってくれていたシャンタルという慈悲の女神が生まれなくなったならば。
「とにかくですね」
どんな時にもはずれた路線を戻すのは自分の役目だとばかり、アランがまた話を始める。
「今のままじゃ、親父も息子も何も得るものがない、ぶつかっても勝つ人間がいない、どっちも負けってことになるかと思います。もしも父親が本当に殺されてるならそれは言うまでもないですし、生きてるにしても今のままじゃ息子の勢力に勝てるだけの手駒があるようには思えない。かといって、息子もこんだけ親不孝だの天が認めないだの言われて国民からの信頼もなくなってきてる。この調子だとマユリアだってすんなり後宮には行かない、そういう話になるんじゃないですか。そんだけ断る口実ができたら。どうしてもマユリアが側室になりたいってのじゃない限りですが。国王命令で無理やりそばに置いても、そんな国王を国民はそれをどう思うでしょうね」
「それは、誰もがつらいことになるかと思います」
キリエが言葉少なに一言にまとめたこと、それが事実であった。
「前の国王陛下の後宮、花園と言われていたあれは、国が平和であったから許されていたことです。これだけ王家の方々が混乱すると、この先、民の心がどうなるかは予測もつきません。そして何かあった時には親不孝の国王のせいだ、そんな声も上がってくるでしょう。その時には一体……」
そんな未来がすぐそこに来ている、それが事実であった。
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