14 アランの役割
アランは心の中で、
(それはヤバい)
と思った。
アランにしてみれば小さなシャンタルはまるで昔のベルのように思えたのだ。
ちょうどその年頃、ベルは兄と自分と3人で戦場暮らし、明日の朝を迎えられるかどうかの生活を送っていた。その頃のベルの姿となんとなく重なって、それでついああ言ってしまった。
だが今、ディレンとルギが言う通り、シャンタルが自分に個人的に興味を持ってしまったとしたら、それは非常にまずいことだと言わざるを得ない。
(何しろ相手は神様だからなあ)
その神様を自分がたぶらかした、みたいなことになったらと、考えただけでぞっとする。
「安心しろ、誰もそんなことは思っていない」
「え?」
アランの方を見ずにルギが言った。
「だが、気はつけてもらいたい」
「はい、分かりました」
アランも素直に認める。
そうだ、ここはそういう国だったのだ。
(くそっ、トーヤがいたらどんだけバカにされたか)
アランは一瞬そう思った後で、
(いや、違う)
そう思い直した。
(よく考えろ、おまえは今、なんでここにいる?)
わざわざ一人、後に残って、そしてわざと捕まったのはなぜだ?
(その役目が俺にしかできない、そう思ったからだろうが)
アランはいつもの冷静さを取り戻して考える。
そう判断して一人でここに戻ってきた。そうしたらシャンタルからお茶会のご招待があった。
(これは偶然なのか? いや、違う)
トーヤから聞いていた話、そしてこの国に来て自分が身を
(おそらく、俺がシャンタルに接触することも定められたこと、運命ってやつなんだろう)
それを考えるとなんとなく不愉快になった。
お茶会自体は構わない。あの小さな
(だけどな)
そう考えながらトーヤが言っていたことを思い出す。
『まあな、神様ってのは
そうだ、神様ってやつはいつもぎりぎりの博打を仕掛けてくるのだ。
『一番最初に目を覚ました時、あの時からずっとそうだった。何しろ考える時間だけはあった。だから今度もそうだ、潮待ちだからってのんびりしてたら俺たちが負ける』
あの島で潮待ちの時にトーヤが言っていた言葉、そうだ、そうなのだ。
(だったら)
自分はこの機会、シャンタルの近くに上がれた機会に「何か」をしなければいけないのだ。
(だが、それはなんだ?)
考えるとますます不愉快な気持ちになってきた。
(それは、あの小さな女神様を利用するってことにならねえか?)
もし自分がルギと同じ衛士の立場なら、単純にシャンタルをお守りする目的でそばにいればいい。
だが自分とディレンはルギとは違う。
ならば、単に女神様のお茶の相手をするために呼ばれたとは到底考えられない。
何のために呼ばれたのかと考えれば考えるほど不愉快になる。
(あの子を利用しなくちゃいけねえのか? 例えば何かを聞き出すとか)
「着いたぞ。この後、船長にはゼトが、アランにはボーナムが話を聞きに行く」
ルギのその声でアランははっと現実に戻った。
引き渡された衛士が各々の部屋に渡された相手を収めて施錠をした。
一緒の部屋にいればディレンにも意見を聞けたのだが、それもできない。
アランはベッドの上に身を投げ出して考え続ける。
考えれば考えるほど、あの小さなシャンタルの無垢な笑顔が浮かんできて、不愉快に不愉快を重ねてしまう。
だが、ふと思い出したことがあった。
「そういやベルも同じようなこと言ってたよな」
ベルが「エリス様」の侍女としてアーダと親しくなり、色々と利用したり情報を引き出さねばならないと、良心の
そんな時にトーヤが言っていたことを思い出した。
『そこが嘘だったら他の部分も全部嘘か?』
『おまえもアーダをいい子だと思うなら、嘘は嘘として置いといて、本気で仲良くすりゃいい』
そして自分もトーヤの言葉に同意した。
あの時、ベルにしかできないことだ、そう言ったのだ。
きれいごとと言えないこともない。
だが真実でもある。
「う~ん……」
アランはベッドの上で天井を見ながら考える。
天井まで豪華だ。
どうやらここは客室の中でも一番下の部屋らしいが、それでもやはりシャンタル宮の一部、どこぞのお屋敷と比べ物にならないほどの贅を尽くした部屋である。
「豪華な監獄だぜ」
そう言って皮肉っぽく笑う。
まるでお話の中の出来事だ。
一体何が本当で何が嘘なのか。
「だからまあ、そんな世界の中で俺はあの子の友達になってやる」
誰にともなくつぶやく。
アランらしくない行動だった。
「いや、違うな、あの子に友達になってもらうんだ」
そう言ってゆっくりと体を起こした。
「本当の友達になってもらう。だから、決してあの子を傷つけるようなことはしない。もしも、俺がここでやらなきゃいけないことをやって、その結果傷つけることになったとしても、俺から友達を傷つけるようなことはしない、そう誓う。そうだ、そうする」
それが、図らずも初めてのカースからの帰り道にトーヤがミーヤに誓ったのと同じ言葉だとは、アランは知ることもなく一人誓っていた。
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