11 伝える方法

 翌日の昼過ぎ、ダルはアルに乗ってオーサ商会へと走った。


「そうなの、よかったわ、ミーヤが開放されて!」


 リルが飛び上がらんばかりに喜ぶので、


「おいおい、そんなに激しく動いたらお腹の子に悪いよ」


 と、ダルがかなり真剣に心配をする


「ごめんね~」


 リルは大きなお腹をさすって我が子に謝りながら、


「でも、しょうがないじゃない?」

 

 と、ダルに向かって笑って見せた。


「それで、これ、預かってきた」


 ダルが懐から大事そうに木彫りの青い小鳥を取り出してリルに渡した。


「おかえり」


 リルはその小鳥を大事そうに受け取り、やさしく頭を撫でてやった。


「その鳥、なんだったの?」


 アベルが届けた青い小鳥のことは知ってはいるが、それをキリエに貸していたことはダルは知らなかった。


「私もよく分からないのだけれど、キリエ様が借りに来られたのよ」

「ミーヤもそう言ってたな」


 どちらも積極的に理由を聞こうとはしなかったのだが、なんとなく、


「何があったのかな」

「何があったのかしらね」


 と、思いがこぼれた。


「ミーヤは何も言わなかったのよね?」

「なんか、落ち着いたからリルに返してって」

「それだけ?」

「うん」

「ふうん……」


 リルは少し何かを考えていたが、


「あれが関係あるのかしら」


 と、つぶやいた。


「あれって?」

「うん、少し前、えっとあれはいつだったかしら……、そうそう、アベルがうちに来た日の翌日の夜よ、キリエ様が突然うちにいらしたの」

「え、キリエ様が?」

「ええ、びっくりしたわ」

「そりゃびっくりするよな」

「ええ」

 

 キリエが宮から出ることはほとんどない。長い宮勤めの年月に、数えるほどしか出ていないはずだ。


「うちに来る前はダルの結婚式だったわね」

「そうだったなあ、マユリアの名代ってことで、村のもんがみんなびっくりしてた」

「そうだったわね。私の時は宮の神殿で結婚式を挙げたので、外出されることはなかったしね」

「だったねえ」

「つまり、それほどのことがあったってことなのよね」

「それで、キリエ様はなんて?」


 リルは少しの間考えていた。

 相手がダルとはいえ、言ってもいいものかどうかを悩んだのだ。


「言ってもいいのよね。いえ、言えってことよね」

「え?」

「ううん、この話をダルが持ってきた、その子を連れて。ってことは、話していいことなのかしらって考えてたの」


 ダルは黙ったままじっとリルを見ていた。


「いいわ、話すわ」

「リルがそう決めたんなら多分それでいいんだろう。いいよ、聞く」


 そうして、リルはその夜のことを話した。


「懲罰房で水音って」

「ええ」

「ミーヤがセルマ様と一緒に入れられてた時のことだよな、それ」

「ええ」

「その後で2人は前の宮の客室に移された。ってことは、その水音が関係あるってことになるか」

「ええ、そうなるわね」


 そのあたりの事情は、先日ラデルと尋ねて来た時に色々話してあった。


「懲罰房から出ているって聞いてホッとはしていたけれど、何が理由か気にはなってたの。それでキリエ様がお尋ねになったことと関係あるのかしらって思ってはいたのだけれど」

「そうだったのか」

「もしかしてミーヤに何かあったのかとも考えたけど、教えてくださらないということは、聞くなということでしょう?」

「そうだろうね」

「水音って、一体何なのかしら」

「なんだろうなあ」


 2人で考えてはみるが、分かることではない。


「まあ、そのうち時が来たら分かるでしょう」

「そうだな」

 

 そうしてこの話を終えた。


「とりあえず、トーヤたちが逃げ出してミーヤが拘束された時よりはよくなってると思うよ」

「そうね」

「俺ももう、宮へ出入りできるようになったし」

「私はこの子が生まれて床上げするまでは無理ね」

「うん、リルはここでどっしり構えてくれてればいいよ。そして色々考えてて」

「ええ、そうするわ。それで、トーヤたちがどこに行ったかなんだけど」

「うん、俺、カースにいるような気がする」

「ええ、私も」


 おそらくそうだろう。

 ラデルのところを出た後で、トーヤたちが滞在できる場所はあそこしかない。


「でも、封鎖が終わるまでは行けないだろ」

「あら、あの洞窟を使ったら?」

「だめだよ、おそらく俺にも監視がついてる」

「そうか、そうだったわね」


 だから何があろうがダルがあの洞窟を使うわけにはいかないのだ。


「なんとかカースにいるかどうかだけでも分かればいいんだけどなあ」

「確認だけ?」

「うん」

「だったらなんとかなるかも」

「え?」

「ラデルさんよ」

「え?」

「あのお守りのこととかでアミからお母さんに連絡してもらうの」

「どうやって? 何を?」

「うーんと」


 リルは少しの間考えていたが、


「何がいいかしら。何か手紙を渡してもらえればいいんだけど、何もなくて何度も手紙のやり取りとか、できないわよね」

「封鎖だしなあ」


 封鎖の間、よほどのことがなければ手紙ですらやり取りは控えるように言われている。

 普通はどうしても足りない物品や食料などしか認められはしないのだが、今回はあまりに急な封鎖だったので、ダルの幼い子どもたちへの心遣いということで許されたのだ。


「手紙も調べられるのよね」

 

 迂闊うかつなことを書くわけにもいかない。

 それほどに封鎖は厳しいのだ。

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