5 一問一答

「新しいことが生まれない、つまりどっかの村で赤ん坊が生まれなくなったような状態、ってことだな」


『そうなるかと思います』


「赤ん坊が生まれなくなった村ってさ、つまり、いつかは誰もいなくなるってこと?」


『そうなる可能性があるかと思います』


「それ、えらいことになるんじゃないの?」


『そうなる可能性が高いと思います』


 トーヤ、ベル、アランの問いに順番に光がそう答えた。


「新しい命を生み出すことができなくなった、そういうことなんですね?」


 今、まさにその体内に新しい命を育むリルが、確認するようにそう聞いた。


『その通りです』


「それは、一体どうすればまた動くようになるんですか?」

 

 やはり自分も子の親であるダルがそう聞く。


『眠りを覚まし、もう一度この世を動かすことです』


「そのために千年前の託宣があり、先代が、黒のシャンタルが生まれたということではないのですか?」


 今度はミーヤだ。八年前の出来事に深く関わった侍女だからこそ、何よりもそのことが気にかかる。


『そうとも言えますし、そうではないとも言えます』


「それな。その返事が一番めんどくさい」


 トーヤが難しい顔でそう言う。


「関係あるのかないのか、はっきり言えねえかな」


『それは一部のことであり、全てではありません』


「一部のこと?」


『その通りです』


「つまりこいつが」


 トーヤが隣にいるシャンタルの右肩に左手を乗せた。


「黒のシャンタルが生まれたことと、この世界が眠ってるってことは一応関係はあるってことだよな?」


『その通りです』


「関係はあるが、俺らが今、自分の身の上に降り掛かってる問題を解決したからって、その世界が寝てるって問題が全部解決するわけじゃない、っていう風にも聞こえる」


『その通りです』


「けど、こいつの存在が、世界を起こすことのどっかには引っかかるってことか」


『その通りです』


「うーん……」


 トーヤが腕を組んで考える。


「ってことは、今はその世界のことってのは、俺らが考えてもどうにもならねえってことでいいか?」


『それは……』


 光が少し考える。


『ええ、それでいいかと思います』


「なんだよ、えらく自信なさげだな。あんたの目にはずっと先、千年前から今のことが見えてたんだろ? だったらそのぐらいの返事してくれてもよさそうなもんだけどな」


 トーヤの言葉にも光は何も答えない。


「あれか、言えないことには沈黙かよ」


『勝手な言い方であることは分かっていてお願いをするのです。今はこの国を、シャンタリオを、シャンタルの神域のことだけを考えてください』


「なんだって? ほんとにそりゃまあ、勝手な言い分だな」


 トーヤが目を丸くして驚く。


『今、この時において、空気が流れないこと、その世界が眠りにつくことについて、一番よく知るものはわたくしなのです。神域を作り、その世界を閉じた。その影響を一番よく知っています』


「なるほど、なんとなく分かったような気がする」

「ど、どういうこと?」


 ベルがトーヤに聞く。


「つまりだな、二千年前、この方はこの地を閉じたわけだ。慈悲ってので満たしてな。そしたらたった十年で具合が悪くなってきた。そうすることでどんなことがあるか、それを自分の身でもって知ったってことだな」

「そういうことなのか」

「そういうことでいいのか?」


 トーヤが一度言葉を止めて光に確認する。


『それでいいのではないかと思います』


「うん。そんじゃまた俺の考えの続きになるが、違ってたら違うって言ってくれ」


『分かりました』


「それでだな。今度は千年前に、今度は閉じた神域だけじゃなく、もっと広い世界ってところで同じようなことが起きた。なんでか分からんが世界が閉じたような事件が起きた。そんでいいか?」


『それでいいのではないかと思います』


「よし。そしたらだな、この神域はどうなる?」

「ど、どうなるって?」

「うん。女神様に閉じられた上に、今度は世界にも閉じられた。つまり二重に閉じられたわけだ」

「ええっ、そりゃ大変じゃねえかよ!」

「だからその話をしてんだよ」

「いてっ!」

 

 トーヤがいつものようベルを小突く。


「だからまあ、世界ってのをなんとかする前に、まずはここをなんとかしろ、つまりはそういうことでいいのか?」


『その通りです』


「あんたはそのために千年前にさっきの託宣をやらせた。そしてそのために黒のシャンタルをこの世に生まれさせた。さて、話は戻った。それはなんでだ?」


『それは』


 また光が一瞬言葉を止めたが、


『わたくしの力を全て受け継ぐためです。そのために通常のシャンタルとは逆である者が必要でした。マユリアと二人でその全てを受け継ぐ為に』


「なんだと?」


『通常のシャンタルと対となるためには、逆の力を受け入れることのできる存在が必要だったのです。その象徴としてその容貌となり、そして男性として生まれてきました」


「ちょっと待った!」


 トーヤが何か言う前にまたベルが疑問を口にする。


「シャンタルが黒の反対で銀色の髪、白の反対で褐色の肌、女の子じゃなくて男の子に生まれたのはなんとなく分かった。じゃあ目は? なんで緑なんだ?」

「そうだな、俺もそれは不思議だと思った」


 シャンタルの深い深い緑の瞳。それだけは反対の者では説明がつかない。

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