17 並ぶ客室
その頃、
「王宮に陛下への謁見を求めて日参していたのに、突然行かなくなるのはおかしいだろう。何かあったのでは疑われると困る。それに、続けて圧力をかけ続けるためにも、同じことを繰り返す方がいい」
ヌオリがそう主張し、今も交代で日に何度も王宮へ足を向けては、いないと知っている前国王に謁見を願い出ている。
ヌオリたちが滞在しているのはトーヤとダルの部屋の一つ空けて隣の部屋だ。
トーヤの部屋、ダルの部屋、そして先日ハリオがルギと話をするために滞在してそのまま一泊した部屋が3つ並んでおり、その隣からは同じタイプの部屋を2つつなげても使えるように、壁に扉が設置された部屋が3組並んでいる。ここまでが前の宮の上級の客室になる。それぞれ廊下を挟んだ反対の山側は、担当の侍女の控室や、その他諸々所用のための部屋だ。
ちなみにその西隣、トーヤの部屋の隣がエリス様ご一行が滞在し続けていることになっている、主従で滞在できる大部屋で、これも3つ並んでいる。今はエリス様の隣の部屋がディレン、ハリオ、アランの部屋だ。一番端だけが空き部屋だが、ほとんど人の出入りのない宮にとっては珍しく、ほぼ満室状態と言っていいだろう。
その一角から東、客殿の方向へ進むと、衛士たちの控室までの間には、セルマとミーヤがいるのと同じ一番小さな客室がずらっと並んでいる。海側、山側に10室ずつ、合計20室ある。こちらは今はセルマとミーヤが使っている部屋だけが使用中で、その向かい側の海側の部屋に、一応念のために見張りの衛士たちが交代で詰めている。もちろん廊下にも絶えず交代で番をしているので、空き室が多いが人の往来は多いと言えるだろう。
ヌオリと仲間は部屋を出ると、そのセルマのいる部屋の前を通って王宮へ行き、しばらくすると戻ってくるという行動を一日に何度か繰り返している。
その度にヌオリは衛士が見張っている部屋のことが気にはなっていたのだが、そんなことをわざわざ聞く必要もなければ、聞いているゆとりもなかったので、いつも素通りしてするだけだった。
だが今は、前国王という貴重な駒を手に入れ、それを使うタイミングを図っている状態だ。少しばかり心の余裕ができた。そうなると、今までは気にならなかったことが気になってきた。
「おい、あの部屋は一体なんだと思う?」
部屋へ戻ると早速連れにそう聞くが、誰も知る者はいない。当然だが。
「あそこは客室だとの話ですが、でも見る限りは衛士が見張ってますよね」
「ああ、それと、時々侍女が出入りしてる姿を見かけます」
「私も見ました、オレンジの衣装の侍女が入っていくのを」
「ということは、その侍女の部屋か?」
ヌオリが仲間たちの言葉をまとめてそう言うが、
「侍女部屋は奥宮にあると聞いた気がします」
「そういう話だな。それに自分の部屋だとしても、衛士に見張られながら自由に出入りするというのもおかしな話だな」
「そうですよね」
人間というものは、一度疑問に思ったことを表に出すと、今度は気になって仕方がなくなることがあるものだ。
「でもあの侍女」
ふと、思い出したようにまた別の者が口を開く。
「確か、隣の月虹兵の部屋にも出入りしていましたよ」
「そうなのか」
「ということは、月虹兵付きなのではないか?」
「では衛士が見張っている部屋にも月虹兵がいるということか?」
「衛士に見張られながら宮にですか? だとしたら一体どういう理由ででしょう」
「そうだな」
月虹兵についてはよく分からないが、もしも衛士や憲兵などという立場の者が何か身柄を拘束される、監視されるなどという状況になったとしたら、それなりの施設に収監されたはずだ。
「月虹兵は衛士や憲兵と違って宮直属というか、確かマユリア直属のような形でしたよね?」
「そうだったな」
そうだ。八年前にいきなりそのような隊ができた、しかもマユリアの直々のお声がけで。
「漁師の
「ええ、それと副隊長に例の託宣の客人と言われる者が」
「ああ」
言われてヌオリも思い出す。
託宣については誰も何も言わない。何があろうと、それはシャンタルがこの世のためにお言葉を下さること。信じる以外の選択肢はない。だが、そんな者が宮に出入りしているという話は、やはり心ざわめかずに聞かずにはおられなかった。
「その後、その託宣の客人という者は姿を消し、この八年、見た者はないという話だな」
「はい」
いないにも関わらず、相変わらず託宣の客人は月虹隊の副隊長だという。しかも、宮の命で世界中を旅しているという話だった。
「では、もしかして、本当はその者があの部屋にいるのでは?」
「あ、そういえば、あの当時、確かオレンジの衣装の侍女がその者の世話役となった、と聞いた覚えもあります」
そう言い出したのは、当時、妹が「行儀見習いの侍女」として宮へ入っていた者だ。その後戻った妹は他家へ縁付いたが、その時にそんな話をしていたように思う。
ヌオリたちの間で、なんとなくその話が真実味を帯びてきたが、
「では、なぜそんなところに閉じ込められている」
分からないのはそこであった。
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