2 船長の尋問
「ってことは、最初からそのつもりで船に呼んだんですか? その、トーヤさんを」
「いや、それは違う」
そこはきっぱりと否定する。
「あそこで会ったのは本当に偶然だ。あいつはあいつでこっちに来る船を探してた。色々事情があってな。そしたら俺を見つけて、こりゃちょうどいいってんで、それで狂犬みたいに食いついてきやがった」
その言い方にルギが笑い、思わずハリオがびっくりする。
「うわ、わ、わ、隊長、そんな笑い方できるんですね」
「その言葉」
ルギが笑いながら続ける。
「八年前にトーヤにも言われました」
「え、八年前?」
ハリオが混乱している。
「あなたはそのあたりの話をご存知なんでしょうな」
「ええ、かなりのことを聞いてますよ」
「って、船長、どうなってんです? 一体何の話を」
「ハリオ殿」
「は、はい」
「あなたは何もご存知なかったようだ。ですからディレン船長とは少し扱いを変えねばなりません」
「って、ちょ、ちょっとそれ」
「ディレン船長、あなたにはもう少し詳しく事情をお聞きしたい。来ていただけますかな」
「ええ、もちろん。もっとも何を話すかは分かりませんよ?」
「十分です」
「ちょ、船長!」
ハリオが急いで止めようとするが、
「ハリオ殿は引き続きここで待機していただきます。後ほど部下たちが話を伺いにきますので」
「って、船長どうするつもりです!」
「それは話を伺ってからのことになるかと思います」
「まあ大人しく待ってろ」
「船長!」
ハリオを一人部屋に残し、ディレンはルギに連れられて部屋を出た。
黙ったままルギの後に続く。
階段を上り、上の階、謁見の間がある階を奥宮の方へと進み、ある一室へと通された。
「ようこそいらっしゃいました、ディレン船長」
出迎えたのはマユリアであった。
「これは……」
驚いてルギを見ると、
「お座りください」
マユリアが声をかけ、ルギが示した椅子に座る。
座るしかない。
この場で何を言われても断るとか逆らうなどできる空気ではない。
マユリアが少し離れた椅子に座り婉然と微笑んでいる。
ここは前の宮にあるマユリアの客室、トーヤがキリエを脅すようにして面会に来た部屋、シャンタルとの「お茶会」が毎日のように開かれていたあの部屋だ。
「ディレン船長」
「……はい」
ディレンはなんとか返事をすることができた。
これまでにお茶会で二度マユリアと面会をしている。
もしも、その二度の面会がなければ、今頃どうなっていたかは分からないが、とにかくなんとか美貌の女神に少しは慣れたからこそできたことだ。
「長らくお待たせしても申し訳ありません。色々とお聞きしたいことがございますが、どうお聞きすればいいのかをまとめる時間も必要でした。そしてこちらにも少し色々とありましたもので、こう申しても言い訳にしかならぬことと承知の上でお詫び申し上げます」
そう言ってマユリアが軽く頭を下げた。
シャンタリオの人間ではないディレンにしても、女神が、この国でシャンタルに次ぐ高い地位のマユリアが人に頭を下げるなど、驚くようなことでしかない。
「あの、頭をお上げください。いや、こんなことをしていただいてはこちらが困ります。どうぞ」
ディレンの慌てふためく声にマユリアがゆっくりと頭を上げる。
「ありがとうございます。では、少し話を聞かせていただいてもよろしいですか?」
「あ、はい」
「トーヤのことです。ですから、共にいらっしゃったハリオ殿と一緒に話をしていただくわけにはいかないかも知れない。そう思ってこちらに来ていただいたのです」
「それがマユリア」
ルギが少し困ったように言う。
「なんですルギ」
「ディレン殿は自らハリオ殿にトーヤとのことをお話しされました」
「まあ、そうなのですか」
マユリアは楽しそうに見えた。
「ではおまえはディレン殿がトーヤとどのような関係かも伺ったのですね」
「はい」
「船長」
「あ、はい」
「ルギがどう聞いたのか聞いてもよろしいですか?」
「え?」
「わたくしはルギが船長の話をどう伺い、そしてわたくしにどう説明してくれるかを聞きたいのです」
「いや、あの、そりゃまあ……」
「よろしいですか。ではルギ、教えてください」
「はい」
そう返事をしながら、さすがにルギも少し困っているようだ。
「どうしました」
「いえ。さきほど客室でハリオ殿に説明をされたところによると、ディレン殿はトーヤの育て親である女性と親しい仲だったと。トーヤはその女性の息子のようなもので、自分にとっても息子のようなものだと」
「まあ、そうなのですか」
マユリアが明らかに楽しそうに少し声のトーンを上げた。
「トーヤのお父様のような方なのですね」
「あ、いや、その、それは」
ディレンは焦った。
多分マユリアの頭の中で想像している父と子では決してない。
「そんな、なんてのかな、そんな上等なもんじゃないってのか、少なくともあいつは俺のことを父親なんて思っていないかと」
「そうなのですか?」
「はい」
これは困ったとディレンは思った。
てっきり色々と尋問されるとばかり思ってルギに付いて来たと言うのに。
(これじゃあ普通に尋問してもらった方がよっぽど楽ってなもんだな)
この国で初めて目を覚ました時のトーヤの気持ちがなんとなく分かる気がした。
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