13 神と姉妹
「そうか……」
村長の話にトーヤがそうとだけ言って黙った。
ならばできれば叶えてやりたい、親子で生活するというごく普通の幸せを。
「ここにきて気になることができた」
トーヤの顔を見ながら村長が続ける。
「あの時、姉はなんでお二人の親御様が同じ方だということだけを言うたんじゃろうと。なんで当時の当代が男性であるとは言わなかったのか。この間トーヤとご本人からそのことを聞いて、それからずっとひっかかっとる」
「そうだな。俺もじいさんから聞いた時はまだそのことは知らなかったからなあ」
トーヤはそこまで言うと、黙ったまま話を聞いているシャンタルにあらためて視線を向けた。
「すまなかったな今までずっと黙ってて。けど、そう簡単に話せる話じゃなかった」
「ううん、いいよ」
シャンタルはあまりいつもと変わらない様子でそう答える。
「おまえ、本当は分かってたんじゃないのか?」
「何を?」
「おまえとマユリアが本当の
トーヤはずっと気にかかっていた。あの日、アランとベルに八年前の出来事を話したあの時、二期目の任期を務めるマユリアに穢れの問題があること、健康状態が気になることを話していると、シャンタルはこう言ったのだ。
『マユリアは私の姉だからね、だから元気でいてもらいたい、もう一度会いたいと思ってる』
それを聞いて、その時はまだ事情を知らなかったベルが、十年も家族としていたのだから母や姉と思ってもしょうがないと言っていたが、トーヤはドキリとしていたのだ。
「何しろお前の中にはまだ神様が入ったまんまだしな。何を知ってて、何をどこまでどう話していいのかも分からなかった」
「そうだったの」
これだけのことを知った今でもシャンタルは変わらない。いつもと同じ、何を考えているか分からない。見ようによっては何も考えていない、感じていないようにすら見える。
だが、それは見た目だけだとトーヤは知っている。「エリス様」として宮へ潜り込み、この後のことをどうするか話していた時、本当は色々なことを考えていたことを知った。そしてベルがその考えを聞いて激怒したのだった。
今度はきちんとシャンタルのことを考えてやる、能天気な見た目に油断して、大丈夫だと安心するようなヘマはしない。
「どうだった」
もう一度確認する。
「うーん、多分知らなかったと思うよ」
シャンタルがこともなげにそう答える。
「マユリアだけじゃねえからな、当代と、そして次代様はおまえの妹だ」
「本当だね。なんか、一気に家族が増えてどうしたらいいのか分からないよね」
シャンタルがいつもの調子でそう言ってフフッと笑ったので、その人となりを知らないアーダとハリオが目を丸くして驚く。
あんな大問題が自分の身の上に起きていることに対する態度にはとても見えない。そう思っているのは間違いなかった。
「あー、びっくりすると思うけど、あいつ、いっつもあんな感じであれが普通なんです」
2人の様子にアランが思わずそう言って助け舟を出すが、その言葉にさらにアーダがびっくりする。
「あの、あいつって、あの、ご先代にその」
「あ、すみません。俺らも長いことあいつが神様だとか知らないでそんな風に接してたもんで」
「そ、そうなんですか……」
ハリオは単にびっくりしただけで済んではいたが、アーダの場合は相手が相手だけにどう受け止めていものか分からずその何倍も驚き、混乱しているようだった。
「とにかくだ」
事態が事態ではあるが、トーヤもさすがにちょっとだけ笑いながら言葉を続ける。
「笑いこっちゃねえことが起きてるってことは、もうみんな分かってるよな」
「そうね」
リルがいち早く答える。
「おそらく、どうにかがんばっていただいて次回があったとしてもそれで最後、そういうことよね」
「そうだな、さすがリルだ」
もう皆が分かっていた、どういうことが起きようとしているかを。
ラデル夫婦からしか次のシャンタルは生まれない。ということは、ラデルの妻が子を生むことができなくなったらもう次代様は生まれないということだ。
13歳という幼いといっていい年齢でマユリア、次が23歳で「黒のシャンタル」を、その十年後の33歳で当代を出産している。そして41歳の今、その
「なあ」
じっと黙っている光に向かってトーヤが確認する。
「もうこの後でシャンタルの親になれる人間は生まれてこないっつーことはだ、ラデルさんちが子どもを作れなくなったらもうそこでシャンタルはおしまい、そういうことでいいんだよな?」
『その通りです』
光が弱々しく瞬いた。
「そんで、それはなんでそんなことになってんだ?」
『それは、この神域の力が弱っているからです。何かを生み出す力がなくなってしまっているからです』
「前もなんかそんなこと言ってたよな、空気が淀んでどうたらとかって」
『その通りです』
「だから、なんでそんな弱ってんだ? 知りてえのはそこだ、そこんところ教えてくれねえかな」
それこそが大事な部分だ。そのせいでこんなことになってるとトーヤは思っていた。
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