6 三つ目の鍵
「認めましたね」
「いいえ」
きっぱりとミーヤは言う。
「セルマ様がお聞きになったような、そのような噂は真実ではありません。私は確かにトーヤを大事に思っております。ですが、そのような仲ではございません。天に誓って」
その真っ直ぐな瞳。
それを見ればミーヤの言っていることに嘘はない、そう思えるだろう。
だが思えるだけではだめだ、証明できなければ疑いは晴れない。
同時に、自分にかかった疑惑も確たる証拠がない限り、自分がやったという証明にはならない。セルマにはそれがよく分かっていた。
だから以前耳にした醜聞を引っ張り出し、無理やりにでもミーヤに疑いの目を向けなければならない。それしか自分が逃れられる
「マユリア」
セルマはふっとマユリアを振り返って言う。
「なんです、セルマ」
マユリアの顔色がやや青いように見える。
「この者の部屋を調べてみてはどうでしょうか」
今、この発言をしているセルマは、まるで自分は容疑者ではなく、取次役として取り調べをしている側のようだ。
「もしかすると二人が通じていた証拠、それにもしかするとキリエ殿に届けた花や香なども出てくるかも知れません」
「マユリア、そんな事実はございません!」
ミーヤは必死でそう訴える。
そんな事実はない。
自分の中には確かにトーヤへの想いがある。
だが自分はこの宮の侍女だ。
一生をこの宮に捧げる、そう決めて幼いあの日、自分の意思でここに来た。
だからこそトーヤに付いて行かなかったのだ。
自分の意思で残ったのだ。
「どうぞお信じください、そのような事実はございません!」
「マユリア!」
リルが足元に気をつけながら前に進み出る。
「ミーヤはそのような子ではありません! マユリアもご存知のはずです、ミーヤがいかに誠実で真面目な人間であるか! ミーヤは決して道を誤るようなことはいたしません!」
「私からも!」
今度はダルが進み出る。
「私は八年前にトーヤと出会い、そしてミーヤとも知り合いました。私もミーヤを、そしてリルやトーヤを大事に思っております。ミーヤも私や私の家族、そしてリルやリルの家族を大事にしてくれております。トーヤのことも、それと同じに大事に思っているだけです!」
「リル、ダル……」
マユリアが2人を見てゆっくりと目を閉じた。
「ミーヤ」
「はい」
「わたくしもリルとダルと同じくおまえのことを信じています」
「ありがとうございます」
ミーヤが深く頭を下げた。
「ですが、それだけではだめなのです。分かりますよね」
「はい」
「いくらわたくしが、リルとダルがおまえを信じている、それが真実である、そう言ったとしても、それだけではみなの疑いを晴らすことはできません」
「はい」
「そのためにもやらなければならぬことがあります」
「はい」
「おまえの部屋を調べます。いいですね」
「はい」
ミーヤはもう一度深く頭を下げ、やがてゆっくりと頭を上げた。
「どうぞお調べください。私がトーヤやエリス様たちを引き入れ、共にキリエ様を害することなど決してありません。疑いを晴らすためならなんでもいたします」
「分かりました。ルギ」
マユリアがルギを呼び、
「ミーヤと、そしてセルマの部屋も調べてください」
「はい」
ルギが衛士たちに命令を出し、衛士たちがミーヤとセルマに近づいてきた。
「部屋の鍵を渡してください」
ミーヤとセルマがそれぞれに隠しから鍵を取り出して渡す。
「セルマ様の部屋の鍵、それからこれは」
「貴重品入れの鍵です」
「分かりました。侍女ミーヤ、やはり部屋の鍵と貴重品入れの鍵と、それからこれは?」
衛士が3つ目の鍵を見て聞く。
「それは」
ミーヤが一瞬言葉を途切れさせ、やがて意を決したように言う。
「トーヤの部屋の鍵です」
部屋の中がざわめいた。
「勘違いなさらないでください」
ミーヤが静かにしっかりと言う。
「私は月虹兵付きの侍女です。そしてトーヤは月虹兵です。トーヤが外の国にいる間も部屋はそのまま置いてあります。その部屋の管理のために私が鍵を預かっている、それだけのことです」
「ええ、間違いありません」
キリエが一歩進み出る。
「私が命じました」
「キリエ様が」
「そうです」
侍女頭の言葉で一応部屋の中のざわめきは収まった。
だがざわめきの波紋は残っている。
「では行って参ります」
衛士たちが二人の部屋へ向かった。
しばらくすると衛士たちがそれぞれにいくつかの箱を抱えて戻ってきた。
「こちらがセルマ様の物です。お衣装以外はほとんどが本、それから雑品など。特に怪しい物はございませんでした」
「ルギ、改めてください」
「はい」
ルギが箱の中から品物を取り出し、セルマに確認を取っていく。
「これは」
「それは実家から送られた家族のミニアチュールです」
「中を見ても?」
「どうぞ」
小さな金属製の箱を観音開きに開くと、中からセルマの家族らしい数名が描かれた細密画が現れた。
「これは」
「同じく実家から送られたお守りのようなものです」
小箱を開けると小さな銀製の護符のような物が現れた。
「我が家の紋章です」
セルマは地方の小貴族の出身である。その家の紋章を彫り込んだ護符は貴族なら持っていても不思議ではない。
「これは」
「それは」
次々と品物が
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