第3話 授業開始-前編
俺はデイジーの後に続くように教室に入る。
教室中の視線が俺に集中していた。理解している。異分子がいきなり現れたのだから。一応ペコリと頭を下げるが全員一様に無反応だった。
デイジーが授業を中断した経緯と俺のことを掻い摘んで説明している。その間も俺に皆の視線は向けられたままだ。どうにも磔刑に処されているような気分だった。
それほどの視線を浴びていたが俺は気を取り直し教室の中を見渡す。
中は概ね俺が前にいた元の世界と相違ない。木製の机と椅子、黒板、教卓、殆ど見知っているものばかり。
何故か後ろの壁には半紙のような紙に魔法陣らしきものが描かれたものが幾重にも貼られていた。こればかりはわからない。元の世界でいう書道の授業と同じ感覚でいいのだろうか。あとで機会があれば誰かに尋ねたいものだ。
次に俺はこれからクラスメートになる生徒達を見た。皆、俺と変わらないくらいの年頃だ。当たり前か。
全員が緑がかった黒いローブを羽織っている。デイジーのものと似ているがよく見れば生徒のほうはローブの右胸に龍の意匠があった。緑色で空に昇る東洋の龍だ。
一方で俺は学ランを着ている。これは師匠が用意してくれたものだ。
なんでも、ディアレス学園の制服が郵便事故か何かで届かなかったらしく師匠が「学び舎なら学ランじゃろう」とわざわざ用意してくれたのである。
正直、『学校=学ラン』なんてイメージ俺には無かったが、わざわざ里まで降りて用意してくれた師匠の気持ちを無碍にはできず……嫌々着てきたのだ。流石に下駄だけは拒否させてもらったが。
そんな時代錯誤甚だしい俺の姿を奇異の目で見るのは当然だろう。というか、逆の立場なら俺もそんな目で見ているはずだ。
「さて、今説明した通り彼がこのクラスの最後のメンバーである」
デイジーは黒板に白いチョークで俺の名前を書く。この所作も懐かしい。というか、魔法の世界でもチョークなんてあるんだな、と変な部分で感心していた。
俺はこの世界の文字も言葉もこちらの世界に入った瞬間から使えている。
シャロンが言うには『脳が書き換わった』ことによる副産物だそうだ。この世界に来てしまった人間全員に起こる不可思議な現象でこればかりは未だに原因不明とのこと。
それでも黒板に書かれた異国の文字で自分の名前が読めるのは不思議でたまらない。また、それにより元の世界に帰ったときはどうなるのだろうという不安が強くなる。
「アイガ・ツキガミだ。皆、仲良くしてやれ」
「アイガです。よろしくお願いします」
俺は深く頭を下げ皆に挨拶した。が、誰も何も反応してくれない。まぁ初日としてはこんなものかなと自分では思っているので問題はない。
「じゃあ、アイガはあの窓側の一番後ろの席に」
デイジーの指さす場所には主のいない机と椅子が一脚ずつ置かれていた。
俺はそこへと進む。
道中、クラスメートの何人かが俺を見ていたので会釈をしながら通り過ぎた。こういうとき、どういうリアクションをすればいいのかわからなかったため頭を下げる以外の選択肢が思いつかなかったのだ。
ただずっと思っていることがある。
師匠、やっぱり学ランはダメだったんじゃないでしょうか……
不安が加速した。
そんなことを考えながら着席する。自分の机の上を見ると分厚い本が置かれていた。表紙には『魔法学』とある。なるほど、これがこの世界の教科書か。
俺はすぐにその本を開いた。
偶々開いたページには属性学なる文字がある。
属性。これはこの魔法の世界の根幹であり常識だ。
師匠が今節丁寧に教えてくれたので俺ですら知っているくらいなのだから。
この魔法の世界には七大属性なるものが存在する。それは六芒星で定義され頂点が光。そこから時計回りに水、風、闇、地、炎と続き、中央に無が存在する。
無属性でメジャーなのは強化魔法や初期魔法くらいだ。種類自体はもっとあるらしいのだが、それは学校で学べと師匠は途中で説明をやめてしまったので俺はこれ以上のことは知らない。師匠曰く、無属性の魔法は説明が面倒なのだとか。
兎に角、この魔法の世界にはその七つが基軸として存在している。
さらにこの世界の住人である魔法使いは全員が
俺は自分なりの解釈として元いた世界でいうところのDNAのようなものだと思っている。
そして個人属性は魔法使いの資質そのもでもあるのだ。個人属性は炎や、水、土といった色を持つ。この色は各個人によって異なり、その色合いも強さも輝きも千差万別。
例えば個人属性が炎の魔法使いと個人属性が土の魔法使いが同じ炎魔法を同時に発動した場合、前者の魔法使いの方が威力も速度も強くなる。さらにそれを習得する時間も断然前者の方が早い。
そのためこの世界の人間は自分の個人属性に合わせて魔法を習得する。
またこの個人属性は七大属性と違って七つではない。先ほど個人属性はDNAのようなものと解釈した理由に起因するのだが、それは個人属性には二つの要素があるためだ。
一つは基礎属性。もう一つが副属性。この二つが二重螺旋のように絡み合って個人属性となるのである。
まさにDNA。
師匠はこれを色紙を用いて教えてくれた。曰く、この世界の人間は大きな色紙と小さな色紙を持って生まれてくる。その色紙が重なってできた色が個人属性となるとのこと。
ただ、大きな赤い色紙と小さな白い色紙を持っていても人によって合わさる色、即ち個人属性が赤の炎だったり、白の光だったり。ピンクの雷だったりするそうだ。
因みに個人属性が七大魔法のいずれでかでない場合、ピンクの雷だったとしても魔法の種類はごまんとあるので自分に合う系統の魔法を覚えればいいらしい。
個人属性の『属性』という大きな枠組みでは異なっていてもも細分化された魔法の『系統』で合致すれば十分な威力の魔法が使えるらしいのだが、この辺りは自分が魔法が使えないのでよくわからない。
ともかく自分の個人属性に、習得する魔法の系統を合わせることが重要らしい。
まぁ、それはそれで重要なのだがこの世界で、今の時代にそこまで細かく魔法を覚えるものは稀有とのこと。
自分に合った『系統』の魔法を覚えた後は、とある御業を習得するのが魔法の世界のエリートの既定路線だ、と師匠は教えてくれた。酒に酔いながら。
今となってはいい思い出だ。
俺は昔を懐かしみガラにもなく微笑んでいた。
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