第59話 探し物
「あ、そうだ……」
不意にクレアは立ち上がると、俺がさっきまで戦っていた場所に向かう。
「どうしたんだ?」
「ちょっとね……」
クレアは答えをはぐらかせながら何かを探していた。
彼女は地面に落ちている何かを拾う。
それは俺がさっきまで着ていた制服の切れ端だ。獣王武人の際に粉々に弾けた服の残骸である。
クレアは何かを呟いた。瞬間、辺りに光が輝きなんと俺が着ていた制服が元に戻っていく。
「はい、これ」
クレアはそれを綺麗に畳んで渡してくれた。
「え? 魔法で直してくれたのか?」
「うん、ていうかディアレス学園の制服は特殊な魔法液につけた糸で縫われているから魔力を消費すれば元に戻るわよ。まぁ燃えたら再生はできないけどね。確か服の繊維のうち、七十パーセント以上あれば生地が薄くなるけど元に戻るはずだよ」
なんと、流石魔法の世界。そんなことまでできるとは。
俺は感心しながら服を受け取り、木陰へと隠れた。
流石にクレアの前で着替えるほど馬鹿じゃない。
完璧に修復された服に着替えて戻るとクレアが俺のローブに触れている。再び祝詞らしき言葉を唱えるとローブの大穴も忽ちのうちに修復されていった。
「はい」
「ありがとう」
クレアの魔法だからか、渡されたローブが暖かい気がした。
そのローブを羽織ると芯から温まる。
この時になって俺は右手にあるはずのブレスレットが無くなっていることに気付いた。どうやらこちらも獣王武人の際に吹き飛んでしまったようだ。
俺は辺りを探す。
「どうしたの?」
「いや、俺のブレスレット……変身した時に無くしたみたいで。あれ俺の魔力の代わりだから無いと困るんだよな。魔法石でできてる特別性なヤツなんだけど」
「じゃあ、私も探すわ。私もサリーから貰った髪飾りが吹っ飛んじゃって困ってるの。直したいし」
「ありがとう、一緒に探そうか」
俺とクレアは二人でそれぞれの探し物を探した。
共通で何かをするその何気ない行為が楽しくて仕方がなく、つい顔がにやけてしまっていた。
そんな中、クレアは次々に吹き飛んだ俺のブレスレットの珠を見つけていく。魔法石はそれぞれが魔力を有しているのでクレアの探知魔法で簡単に見つけられたようだ。
あっという間に全て揃う。
珠は罅すら入っていない。かなり頑丈のようだ。
しかしゴムは結局見つからなかった。ゴムの部分には魔力が通っていないためだ。
「多分ゴムはなくても良いと思うよ。日常的に使いやすいようにブレスレットって形にしていただけで重要なのは珠の方のはずだから。魔法石の珠さえあれば魔力を消費する魔法陣のシステムは起動するはずだし。まぁ、最悪私の魔力で一緒にワープすればいいから大丈夫だよ」
クレアの頼もしい言葉に俺は感心した。
俺はバラバラになった珠をズボンのポケットにしまう。
そしてまた二人で探し物の続きを始めた。
クレアの髪飾りがまだ見つかっていないのだ。
「ん~やっぱり見つからないかぁ~」
髪飾りは探知魔法に感知しないらしく、クレアは諦念の表情になっていた。俺はそんなクレアを喜ばせようと地面を這うように探すが、どうしても見つからない。
「無いな……」
「そうね……」
クレアのがっかりした声が響く。
「ごめんな。クレアは俺のヤツ見つけてくれたのに」
「別にいいわよ。アイガのは、探知魔法でわかっただけだから」
それでも諦めきれず俺は辺りを必死に探した。
草の根を分けてでも、そんな気概で地面を探し続け、なんとか緑の欠片を発見する。
だが、それはあの髪飾りの一部でしかなかった。
それ以外は全く見つからない。
「ごめん、これしか見つからなかった」
「見つけてくれたの!? ありがとう。これで十分よ。サリーにはきちんと謝るから。許してくれると思うし」
クレアは笑顔でそう言ってくれた。
本当は全部探したかったが天頂の月に雲が陰り、辺りが暗くなる。時間もだいぶ過ぎていた。タイムリミットだ。
「そろそろ帰りましょうか、明日も授業あるし」
「そう……だな」
クレアは周囲の炎を魔法で集め、そのまま右手を行きの時同様松明の如く燃え上がらせた。
「さぁ行きましょう」
二人で来た道を引き返す。
魔獣は現れない。
出てきたところで瞬殺するだけだが何故か気配すら感じられなかった。魔獣の死骸の臭いにもよるかもしれないが、それでも気配すら感じないのは少し変に思った。
結局、何も起こらず俺達は森を出る。
森の入り口には結界魔法の魔法陣があった。
この魔法陣が森の周囲に規則的に並び、森から魔獣が出ないようにしているのだ。ただ強力な魔獣はこの結界魔法を掻い潜るらしいがアルノーの森はそんな強い魔獣はいない。
と、言いたいが本来いないはずのアサルト・モンキーが出現した今、俺の知識はあまり役に立たないだろう。
俺はアルノーの森を今一度眺める。
たった数時間しかいなかったアルノーの森。
その中で俺は濃密な時間を過ごした。
魔獣との激闘。その果てに獣王武人を曝け出すことにもなった。
だが、それ以上にクレアと本当の意味で再開を果たせた。
それ故に俺の人生において、この場所は間違いなく忘れられない場所になっただろう。
月の光が照らす黒い森を眺めながら俺はクレアと共に歩き出す。
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