第45話 クレア編~初めての親友
決闘の場は学校のグランド。
そこは模擬の魔法戦が行えるように対魔法用の白い石で地面が覆われていて、周囲には被害がでないよう結界が貼られていた。ここでならどんなに強い魔法を使っても問題無いらしい。
対峙する私とサリー。
彼女は威風堂々と講釈を垂れていたが私の耳には入らない。
そんな私に怒るサリーは祝詞を唱えた。彼女の言葉が紡がれる度に白い地面に魔法陣を幾つも描かれていく。
数秒で数多の魔法陣が完成し光り輝いた。その中央でサリーは別の祝詞を唱える。魔法陣は空中にも表れ、やがて私は大量の魔法陣に囲まれた。
「泣いて謝るなら許してあげますわよ」
サリーがそう呟く。
私は彼女を虚仮にするように鼻で笑った。
安い挑発にサリーは容易く怒り、右手の指を鳴らす。
瞬間、強烈な魔法が降り注いだ。空中の魔法陣からは槍が、地面の魔法陣からは無数の刃が私に向かって飛び出す。
「へぇ~こういう魔法もあるんだ」
私は至極冷静だった。
私の中にあるどす黒い部分が少しだけ外に零れる。
サリーは脅すつもりだったんだろう。全ての切っ先は私を向いていない。私の周りに照準を合わせていた。
確かにこれだけの魔法を食らえば死んでしまう。まだ年端も行かない彼女にそこまでの覚悟はないだろう。
普通なら腰を抜かして失禁して謝って許しを請うのかな。
ただ、私がそんなことするわけがない。身体から零れたどす黒い部分が私の口角を上げた。
私は契約魔法を発動させる。同時に周りが爆ぜた。
空中に現れた槍も地面から飛び出す刃も全て灰塵と化す。
彼女がそうしたように私もサリーに照準を合わせず、彼女の周りだけ残るようにして全てを焦土に変えた。
純粋な炎の暴力。
爆炎が吹き荒び、噎せ返るような灼熱の中、私は怒りに身を任せる。
結果サリーがいた地面だけを残し、白い地面は跡形もなく消え失せ、結界も許容量を超えたためか木端微塵に砕け散った。
サリーは残った白い地面に尻餅をついている。失禁までは……していないと思う。多分。
「もう私の邪魔をしないでね」
私の一言に彼女は涙目で首肯した。
やりすぎたなんて思っていない。
私はそのまま学校を出る。こんな力の差を見せつけても満足なんかできない。
酷い言い方だけど格下と比べても仕方が無いから。
でも私の心は少しだけマシになる。鬱憤が晴れた。
これで静かに自分を鍛えられる。
そう思っていた。
でも現実は違った。
次の日、サリーは今までの非礼を詫びて私のことを『クレア様』と呼ぶようになる。そんな大層なものでもないし、やめてほしいといったけど彼女は頑なに拒否した。
正直驚いた。
私のことを忌避し二度と話しかけてこないと思っていたから。歴然たる力の差を彼女は感じたはずなのに。
それから毎日サリーは私の後を追いかけてきた。正直、鬱陶しいと思っていた。
思っていたのに……
次第に私の心に変化が現れる。
サリーが私と一緒に行動するようになって他の人たちも私を慕うようになったから。
「凄いです! クレアさん!」
「クレアさんみたいになるにはどうしたらいいんですか?」
「クレアさんの魔法もっと見てみたいです」
それは今まで私が体験したことのなかったもの。
称賛と憧憬。
敵しかいないと思っていた私の心はどんどんほぐれていく。
自分の心が変わると他人からの視線に敵意がないことに気付けた。自分で自分の殻に籠り勝手に敵を作っていただけなんだ、と。
いつの間にかサリーとは親友になっていた。言葉遣いだけは未だに直らないけど彼女は私の掛け替えの無い親友だ。
一緒に笑って、一緒に泣いて、一緒に遊ぶ。
これが友達、これが親友。
それを教えてくれたのがサリーだった。
初めて出来た同性の友達。
放課後に美味しいお菓子屋さんに行ったり、流行りの服を買ったりもした。
この頃には痩せ細っていた私の身体は標準くらいの体型になっていたし、隈も消え肌も潤いを取り戻していた。
化粧もするようになって一端の女子学生になった。
最初はそんなことをしている場合じゃないとサリーに訴えていた。自分が異邦人で元いた世界の大切な人を巻き込んでこちらに来てしまった。だからその人を帰すためにも私は強くならないといけない。そう全てを正直に話した。
サリーはニッコリ笑って一言。「休憩も必要ですよ」と。
私はついついその言葉に甘えてしまう。
それにサリーと出会ってから色んな魔法を彼女が教えてくれた。
そのお陰で私の魔法の幅も広がる。
攻撃魔法ばかり鍛えていた私にとってサリーが教えてくれる魔法は本当に衝撃的だった。相手を検知する魔法や、防御、回復魔法。全て目から鱗だった。
彼女と遊んでリフレッシュすることで魔力の回復も次第に早くなる。
そして私は堕落した。
サリーが悪いわけじゃない。全部私が悪い。体験したことのなかった学校生活が私を変えてしまった。
友達との何気ない日常。
それが楽しい。凄く楽しかった。学校というものが本当に楽しかったんだ。
それは初めての感覚。
否、この世界へ初めて来たときに感じたあの感覚だ。
でもアイガを忘れたことなど一秒たりともない。
だから己を鍛えることは止めなかった。
サリーも私と一緒に修行してくれた。彼女もまた修練を重ねることで強くなり私も彼女に刺激されてより強くなれた。
お互いがお互いを刺激し合って高め合えた。
それから月日が経ち……
アイガを帰すため、ディアレス学園の特別科に私は入学する。
厳しいと言われた試験を楽々と突破した。
まずは第一関門突破だ。
シャロンさん……否、この学園に入学したのだから、シャロン先生だ。
シャロン先生曰くその年の首席は私だったらしい。力も順調に成長していると言ってくれた。
その所為か、余計に調子に乗ってしまう。
サリーも私を追うようにディアレス学園に入学した。しかも同じ特別科だ。
嬉しかった。親友と同じ学校、同じクラスになることがこんなに嬉しいことだなんて思わなかった。
大丈夫。私はちゃんとできている。
そんな根拠のない自信で彩られた学園生活。
本当に楽しかった。
笑顔の日々。だけど……
忘れもしないあの日。
それは突然訪れた。
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