第7話 魔術師と魔導士
魔術師と魔導士。
一見すれば何の違いもないようだがこの違いは師匠から教わっている。
この世界では魔法が存在する。そして一定以上の高難度魔法が使える者を総称して『魔法使い』と呼んでいる。
さらにその『魔法使い』から『魔術師』と『魔導士』に分けられる。
『魔術師』は魔法を使って戦う者を指す。俺がいた世界における魔法使いのイメージはだいたいこちらだ。
他方で『魔導士』はロビンが言った通り研究職に就く者、研究者のことだ。新しい魔法の構築や魔道具を生み出すなど、魔法を使った科学者、技術者といった具合か。
無論、この二つもさらに細分化されていくが、俺はその先の説明をちゃんと聞いていなかったのでここまでしか知らない。
「魔導士か……良いじゃんか」
なんとなく闘うイメージが沸かないロビンは確かに魔導士が似合う。逆にゴードンなどはバリバリの魔術師が似合うだろうな、と勝手に想像した。
「ハハ、ありがとう」
ロビンの顔が少しだけ晴れる。
「でも、魔導士は大器晩成が多いんだよね。というか一生をかけても何の発表もできず終わる人のほうが大半。すぐにでも家を再興したい父には猛反対されているんだ」
どうやらロビンの家の事情は俺が思う以上にかなり複雑なようだ。優遇されているとはいえ貴族というのは柵の多いものなのだな。
ロビンの表情は変わらず優れない。
「それに……僕、実はあんまり戦闘系の魔法は得意じゃないんだよね。この学校にも殆ど座学で入ったようなものだしね」
座学で入るだけでも充分凄いと思うが……いや実力主義の学校に座学で入るというのは本当は俺が考える以上に凄いことなのでは……
そこまで考えたとき、俺は事前に貰っていた学校の資料の中身を思い出す。
「あれ? この学校って研究科があったはずじゃ……」
つい口に出してしまった。
「そうだよ。二組の人たちだね。あそこが研究科だから。体術訓練とかなくて座学や魔法実験とかをずっとやってるんだよね。僕も本当はそこに行きたかったんだけど父の命令で普通科に入ったんだ。まぁ普通科は普通科で楽しいんだけどね」
その言葉はどこか空虚を感じる。
ロビンの口ぶりから察するに恐らく彼は研究科へも簡単に入学できたはずだ。
憧れていた場所に行けない。行くことができたはずなのに。そしてそれは身近に存在する。
これほど辛いことはないのではないだろうか。憶測でしか図れないがロビンの無念さは相当なものだと感じた。
「楽しい……ね。ゴードンみたいなのがいるのにか?」
つい意地悪な言い方をしてしまう。
ただ、エゴだとわかっているが俺はもう少しロビンの本心が聞きたくなっていた。
「う……そういわれると辛いかも……あ! このことはゴードン君には……」
「言わないよ」
俺の答えにロビンは心底安堵したようだ。
「これも内緒にしておいてね。実はゴードン君も家の問題で苦労しているんだよ」
ゴードンが? そうは見えなかった。どちらかと言うと家の威光を傘にして威張り散らしているようにしか見えなかったが。
「ゴードン君の家、オークショット家ってこの大陸じゃあ超有名な貴族なんだよね。貴族の中でも本当に名門中の名門。この国の王様の次にくる重要な四大貴族、『カルテット・オーダー』の一角だからね、オークショット家は。そのオークショット家の次男としてこの学校に入学したんだけど……彼は普通科にしか入れなかったんだ。それで家の人に特別科に入れなかったことを相当責められているらしいんだ」
「そんなことで?」
「カルテット・オーダーにとっては大問題なんだよ。特別科に入れないのは」
ロビンは眉一つ動かさない。その表情からは先ほどまでとは違い全く感情が読めなかった。
「オークショット家は今まで多くの素晴らしい魔術師を輩出しているんだ。ゴードン君のお父さんはエリートの中のエリートで構成されている
最後まで聞くと漸くロビンから哀れみの感情が読み取れた。だからゴードンの理不尽にも文句を言わなかったのだろうか。
貴族には貴族の不条理と苦しみがわかるのかもしれない。
しかし、この学校に入れるだけでも大変なのにさらにその上に行くことが当たり前とは貴族の世界とはなんとも息苦しいものだ。
「普通科から特別科には行けないのか?」
俺は思いついた疑問をそのままロビンに問う。
ロビンは腕を組みながら少し考えた。
「いや~普通科から研究科に移った人や逆はあるらしいけど、特別科に入った人はいないらしいよ。それくらい特別科ってすごいんだ。才能だけで選ばれた本当の大天才ばかりだからね」
得心がいく。
俺の探し人も大天才というカテゴリーに入る人物だ。
アイツがいるクラスなのだからそりゃ、文字通り『特別』なのだろう。
そんな話をしているといつの間にか俺たちは目的地に着いていた。ずっとお喋りをしながら歩いていたためここまできた道のりを全く覚えていない。帰りもロビンを頼ろうと思う。
そこは俺たちがいた教室となんら変わりない部屋だった。ただ机や椅子などはなく教室の床に魔法陣が描かれているだけだ。
「これは?」
「これ凄いよ。僕もこの学校に来てから初めて見たんだけど儀礼型簡易式空間魔法制御魔法陣っていうんだ。あ、これは正式名称で僕らや先生たちは『ワープ魔法陣』って呼んでるけどね。有名な魔導士が造ったもので難しかった空間魔法を誰でも簡単に行えるようにした優れものなんだ。この魔法陣の文字と配列なんか凄くて……」
ロビンがいきなり饒舌になる。
今までとは全く違う彼の顔があった。
その表情は本当に嬉しそうなのだが訳の分からない単語の連続に俺は少し引いてしまう。
「あ、ごめん。つい……」
「いや、いいんだ。本当にロビンは魔導士がお似合いだな」
「ハハハ、ありがとう」
そう言ってロビンは魔法陣の中央に向かった。
俺もそのあとに続く。
「もう皆行ったみたいだね。僕らが最後かな。じゃあ、行こうか」
ロビンは地面に両手を翳す。
「これは少ない魔力でワープできるから本当に便利だよ」
「ん? 魔力?」
この時俺は気づく。
魔力で動く魔法陣。そこに乗る魔力の無い俺。
これは発動したらどうなるんだ?
俺だけ移動できないとなるとお笑いにもならない。いや、それで済めばいいが空間に挟まって死ぬなんて最悪だ。
まだアイツにも会えていない。
俺は混乱して「ちょっと待って」と言いかけたがロビンは魔法陣を発動してしまった。
俺たちの足元にある魔法陣は赤く輝き、その光に俺とロビンは包まれる。
マズい、待ってくれ。まだ心の準備が……
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