第127話 オリエンテーション 11
「なんだ、ゴードンわかっていたのか?」
「え? どういうこと? え?」
どうやらロビンは気付いていなかったらしい。が、これが普通の反応なのかもしれない。
「あの程度すぐに気付くわ。これは宝探しではない。いや、正確には宝探しともう一つあるというべきか」
「ん?」
ロビンはまだ混乱している。
「あぁ、いうなれば『宝奪い』か。あ~語呂悪いな」
俺は自嘲気味に笑う。
「え? どういうこと?」
ロビンはさらに混乱する。
「デイジーは取った玉を奪うことは禁止にしていない。砂の壺に入れたら動かせないと言っただけだ。つまりこの森で玉を取った後、あの砂の壺に入れるまでの道中で襲われて玉を奪われても問題ないってことさ」
「そんな!」
そう、このルールが最も怖い部分だ。
特別科と普通科の戦力差は歴然。
探索魔法で玉の位置がわかるなら動いている玉の位置もわかる。
多くの玉を持っている人間を狙って玉を奪えばいい。
だから十八人対三人という図式でゲームが成り立つ。
いや、そのルールを理解せずに団結しなかった時点で既に普通科に勝ち筋は無くなっている。
一斉に森にクラスメートが入った時から俺はもう半分諦めていた。
個々に動いた瞬間敗北していたのだ。
今から彼らを集めて説明する時間はないだろうし、どこにいるのかもわからない。
さて、どうしようか。
「しかし……問題は黒と白の玉だな」
そう言いながらゴードンは緑の光を俺達に見せてくれた。
「このように赤、青、黄色の位置は把握しているのだが、黒と白だけは反応が無いのだ。それにあの時箱から飛び出したのは三つの玉ばかりで黒と白の魔力の探知ができなかった」
「本当か? それは」
「あぁ」
つまり、黒と白はあの時跳んでなかった?
待てよ、確かにあの時黒と白は無かった。
後から追加されるのか?
しかしゴードン曰く黒と白は感知できない。
気になる。
これは……どういうことだ?
その時。
俺は背後に気配を感じた。
振り返ると森の茂みから何かが飛び出す。
マネキン。
それが最初の印象だった。
木でできたマネキンだ。
そのマネキンは右手には太い棍棒を握っている。
野球のバットの先が膨らんだような形だ。
「なんだ?」
「マジック・ドール! 魔法で動く人形だよ。あ、これがもしかして……」
「成程、刺客か」
俺はすぐに走った。
マジック・ドールとやらは俺の接近と同時に棍棒を振り上げる。
遅い!
「丹田開放! 丹田覚醒!」
瞬時に『魔人の証明』を発動させた。同時に氣が手足に宿る。
振り下ろされる棍棒を俺は即座に躱した。
空を切る棍棒は地面に落ちる。
俺は隙だらけのマジック・ドールの左わき腹にアッパー気味のパンチを撃ち込んだ。
人形だからか、呻くこともない。
だが、確かな感触があった。
流動する氣にマジック・ドールの身体が反応して破裂する。
やはり! 氣は通る。
俺はそのまま右手を引き、勢いそのままに後ろ廻し蹴りをその顔面に叩きこんだ。
人間なら首が折れるほどの衝撃で仰け反るマジック・ドール。
完全にがら空きになったその胸に俺は乾坤一擲の正拳付きを見舞った。
マジック・ドールは吹っ飛んで後ろにあった大木に激突する。
そして音を立てて壊れた。
確かに強さは低級魔獣程度だ。いやそれより弱いかもしれない。
この程度なら他のクラスメートでも恐らく問題あるまい。
「ん?」
俺は壊れたマジック・ドールの胸部に何か光るものを見つけた。
取り出したそれは、黒く光る欠片だ。
丁度、玉を四分割したような形をしていた。
一瞬で理解する。
「そ……それは?」
俺は手に入れたものをゴードンとロビンに見せた。
「黒い玉の欠片だろうな」
これを四つ集めてくっつければ黒い玉の完成だ。
「なんと、刺客を斃せば手に入るのか」
「あぁ。そういうことらしい」
「しかし……それからはなんの魔力も感じられんぞ」
「何? 本……」
俺は『本当か』というセリフを咄嗟に飲み込んだ。これを言えば俺が魔法が使えないことが、ばれるかもしれないと思ったからだ。
ゴードンは不思議そうに俺を見つめている。
危なかったかもしれない。
ただ、もし本当にこの黒い欠片から魔力が発していないとするなら……
勝ち筋が見えた。
微かだが完全に断たれていた先ほどよりかはマシだ。
「ここからは別行動を取ろう」
「え?」
「俺は積極的に刺客を斃して玉を集める。ゴードンとロビンは普通に玉を集めてくれ」
「我らを囮にするつもりか?」
ゴードンが笑いながら聞いてきた。どうやら俺の意図を理解したらしい。
「俺が囮になるかもしれないだろ? この黒い欠片、今は何の魔力も持っていないが、合体させた段階で魔力を放出するタイプかもしれないからな。そうなると彼女らは十点をもっている俺を狙うだろう」
「それって危なくない?」
ロビンが不安そうな顔で聞く。
「大丈夫だ。俺を狙ってくれるならその隙にゴードンたちが玉をかき集めて壺に入れてくれ。逆なら俺が壺に十点を入れる」
「でも、特別科の人たちが二手で分かれてゴードン君とアイガ君を狙ったら?」
「それならそれで他のクラスメートに賭ける。元々既に勝ち筋は消えかかっているんだ。ある程度危険は承知の上さ」
俺はゴードンに視線を送る。
ゴードンはしっかりと頷いた。
「じゃあ、頼んだぜ」
俺は獣道から外れ、森の奥へと分け入った。
「無茶しないでねぇ! アイガ君」
ロビンの声が聞こえる。
俺は振り返り、親指を立ててそれに応えた。
二人と別れ、道なき道を只管突き進む。
どれくらい走っただろうか。それすらわからない。
よもや、こちらから刺客を探すことになるとは思わなかった。
しかし、どこにいる?
いざ探すとなると苦労するものだ。
不意に気配を感じた。
この気配は? 敵意?
俺は咄嗟に跳んだ。
俺がいた場所に無数の刃が降り注ぐ。
「な!」
地に着地すると同時に構えた。
眼前にいたのは……
サリーだった。
「サリー?」
その瞳は憂いを帯びている。それが何を意味するのかわからなかった。
彼女は俺に向けて右手を翳す。
「おい、俺は玉を持ってないぞ」
本当に玉は持っていない。
それに水着の俺に玉を隠せる場所なんてない。よしんば隠せたとしても彼女なら探知できるはずだ。
俺が持っているのは欠片だけ。それをポケットに入れているだけだ。
「サリー?」
彼女は無言のまま俺を睨む。
どこか様子がおかしい。
そして。
「
祝詞!?
俺相手に?
「待て! サリー……」
「アルラウネ」
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