第4話 授業開始-後編
「アイガ君、宜しくね。僕、ロビン。ロビン・アーチャー」
師匠との思い出に浸る俺に突然隣の人物が話しかけてきた。慌てて俺は目を見開きぎこちない笑顔で対応する。
「あ……宜しく……アイガ……です」
同年代と話すのは本当に何年ぶりだろうか。全く思い出せないほど遠い過去のようで自分でも気持ち悪い対応になってしまった。
秒単位で反省点が増えていく。
ロビンは金髪碧眼の愛くるしい少女のような少年だった。ボーイッシュな髪形が似合うためかその顔は一見して女性と見間違えそうだが声の質と名前の感じから男性だとわかる。
ロビンはにっこりと笑い前を向いた。他の者ももう視線を俺から教卓のデイジーに向けている。
俺はとりあえず、一番後ろの席に座れたので全員の動きを俯瞰的に観察することにした。
全員が教科書を開き、ノードを取り、騒ぐことなく真面目に授業を受けている。流石はエリートの学校だ。俺がいた元の世界の学校とはまるで違う。
ただ、それは俺が通っていた学校の問題なのだが。
「で、あるからして属性の細分化・・・」
デイジーの声が響く。彼女が行なっている授業の内容は丁度俺が回想していた師匠の教えと仔細は少し異なるが概ねは合致したものだった。
ふとデイジーが掌から火の玉を生み出す。魔法の行使だ。
何もない空間から突如として生み出された炎。ライターやマッチなどで作られたものではない。その証拠に燃える炎は緑だった。自然界で見ることのない色である。
魔法は何度見ても飽きない。元来魔法のない世界にいた俺からすればそれは、どんな面白い映画より刺激的なのだ。
同時に羨ましい。できることなら俺も使ってみたかった。その思いはこの世界に来て五年経つが変わらない。
しかしその望みは永遠に叶わない。
俺は魔力がないのだから。
指先から火を灯すことも、路傍の石を宙に浮かせることも、瞬時に水を凍らせることも、俺にはできない。
そのことが時折悲しく、また重く俺の心に圧し掛かることがある。それは羨望もあるだろうし、どこか仲間外れだとこの世界に突き付けられている気がしたからだ。
「魔法とはこのように周囲の魔素を取り込み……」
デイジーの声にハッとして俺はかぶりをふった。
物思いに耽るの止め、己を戒め授業に集中する。感傷に浸るなどとうに辞めたはずなのに。久しぶりに学校というものを体験して心がざわついたようだ。
それにデイジーの授業は聞いていて面白い。端々で抑揚をつけ、生徒に興味を持たせつつ、集中力が続くように考えられている、気がする。少なくても酒に酔いながら教えてくれた師匠よりは遥かにわかりやすい。
「細分化された属性の代表などは『雷』、『氷』などがある。さらに『毒』や『花』などもあるな。昨今はさらに枝分かれし……」
デイジーの授業が進むと俺の知らない部分が出てきた。俺はノートに急いで黒板の内容を書き写していく。
そして。
キーンと甲高い金属音が突如としてどこからともなく響いた。
俺が不思議に思うと同時に、
「おっと、ここまでか」
と、デイジーが教卓の上の教科書を閉じる。
どうやらこの金属音はチャイムだったようだ。
「では、これで一時限目を終わる。次は体術訓練だ。遅れないようにな。あと、すまんがロビン、アイガを訓練場まで案内してやってくれ」
そう言ってデイジーはクラスを出て行った。
静かに次の用意をするクラスメート達。そんな中で俺は舞い上がっていた。今、心に去来するイメージは周囲の静寂とは裏腹に祭囃子の響く祭りの映像だった。
とどのつまり、燥いでいたのだ。
今まで習った魔法の知識も忘れるほどに。
無論それを身体で表現することはない。
しかし窓に映った表情は自分でも気持ちが悪い。
そして申し訳ないが隣にいて、俺を訓練場に案内するよう仰せつかったロビンのことも視野に入っていなかった。
それは仕方のないこと。次は体術訓練なのだから。
やっとだ。やっと……会える。アイツに。
ここまでの道のりは長く険しかった。それでも歩みを止めずに来られたのは全てアイツに会うためだ。
その想いが燃料となって俺の心で喜びの感情が爆発した。こうなってはもう止めることなど不可能である。
流石に初対面でこの無礼はいけない。そう思い、俺は自分の気色悪い表情を正してロビンの方に向き直す。
その時だった。
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