第55話 クレア編~焦燥の中で
「クレア! 大丈……熱!」
アイガが私を心配して駆け寄ってくれた。
胸に痛々しい傷があるのに私の心配をしてくれるなんて。
ありがとう、アイガ。
でもアイガの接近で私はアレを使うのを躊躇ってしまった。
「大丈夫……私は大丈夫よ。炎の魔法で防いだから。それより貴方は早く逃げて! あれはヤバいわ! 早く!」
あのアサルト・モンキーは危険すぎる。
逃げて。お願いだから。
私の言葉を受けてアイガは私に背を向ける。
あぁ、闘うつもりだ。
やめて、アイガ。
死んじゃう!
私はそれが怖かった。
アサルト・モンキーが消える。
まただ。
これは空間魔法のテレポート。
でも探知魔法を発動したままの私なら場所はすぐにわかる。
アサルト・モンキーの出現する場所。
それは……
私の後ろ!?
こいつ! 動けない私を狙う気か。
ならば好都合だ!
例え背中を抉られてもその瞬間に大量の爆炎を浴びせてやる。
私が脳内で魔法陣を組み立てた。
その時、アイガが私とアサルト・モンキーの間に割って入る。
そのまま戦闘に入った。
ダメだ!
素手じゃあ魔獣に勝てるわけがない。
あの刺青のようなものは今のところどんな力を持っているかわからないけど、少なくてもアサルト・モンキーに対して有効打にはなっていない。
私は脳内の魔法陣を練り直す。ここから脱出するために全力を出すことにした。
急がなければ。
あのアサルト・モンキーは遊んでいる。いつかのブレード・ディアーと同じだ。魔力のないアイガを玩具としてか見ていない。
早くここを脱出しないと。
あの猿が飽きた時、アイガがあの時と同じく、死にかけてしまう。いや、今度こそ死んでしまう。
トラウマが蘇り私の背中に汗が滲んだ。
あ!
恐れていたことが。
アサルト・モンキーの一撃がアイガに決まる。
それからは一方的だった。
どんどんアイガの身体が血塗れになっていく。
止めて! 止めて! 止めて! 止めて! 止めて!
焦りで魔法陣の構築が乱れた。
眩暈がする。
こんな時に。
アイガの身体に傷は増えていく。このままじゃ!
またあの時と同じだ。
焦りが頂点になった時、一瞬の静寂が訪れる。
アイガが起死回生の一撃を放った。
それをアサルト・モンキーは容易く躱し、重い重い一撃をアイガの右腕に穿つ。
彼の右腕が砕けた音がした。
私は溜まらず叫んだ。
土塊が邪魔して声は外に出ていない。
あれ?
アイガを攻撃したアサルト・モンキーが地面に蹲る。
血反吐を吐きながら土下座のような体制になった。
アイガは無事だ。
右腕と鼻から夥しい出血をしているけど無事だった。
どうして?
何が起こったのだろうか。
わからない。
でもアイガが無事でよかった。
私は心底安堵する。
次の瞬間、アイガが膝をついた。
彼の腹の肉が爆ぜ、血が飛び散る。
土魔法で生まれた土の弾丸がアイガのお腹に命中していた。アサルト・モンキーが蹲りながら土魔法で大砲を作っていたのである。
その狡猾さとアイガが倒れる姿を見て私は発狂した。
安堵から一転して恐怖のどん底に叩き落され、冷静さを失い、最早魔法陣の構築もままならない。
純粋な魔力だけで私は魔法を発動する。
「やめろぉおおおお!」
魔力を完全に開放し、周囲一帯を全て吹き飛ばした。
それは嘗て幼き日にブレード・ディアーに行ったことと同じこと。ただ今は炎の力が混ざっていたが。
勢いで髪留めが弾ける。
纏めていた髪が振り乱れ、己の殺意が自分の顔を歪め、宛ら鬼のようだ。
それでいい。
例え鬼になろうとも構わない。眼前の敵を葬れるなら。
許さない。
アイガを傷つける者は何人であろうと許さない。絶対に。
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