第28話 初任務-発見

 そんなこんなで俺たちはアルノーの森に来たのである。任務内容は採取。魔獣がいる森での採取クエストだ。


 比較的安全。

 その言葉は本当だろう。『任務の中では』という言葉が抜けているだけだが。

 魔獣の生息域には危険度というものがある。


 王都や人が住む町は危険度ゼロ。

 アルノーの森は危険度四。魔法使いの護衛無しで一般人は踏み入れない場所だ。

 因みにトライデント・ボアやシャドー・エイプが住んでいる場所の危険度は一~二程度。


 つまりこのアルノーの森にいる奴らは基本的にもっと凶悪で強力ということになる。そんな森を二人で歩いていたのだ。


 ムードもへったくれもないが俺としてはやっとの思いでクレアと邂逅でき、こんな鬱蒼とした森とはいえどもデート気分を味わいたいのだ。


 しかしクレアは一向に話してくれない。振り向いてもくれない。黙々と森の中の獣道を進むだけだ。


 もやもやしながら俺は只管クレアの後を追いかける。

 ふと、急に立ち止まるクレア。彼女の目の前には一本の巨木があった。天を穿つほど大きく、大地にどっしりと根を張り、相撲の土俵くらいはあるのではないかと思うほどの太さの巨木だ。


 まさに圧巻。

 その木の根っこに白いキノコが数本生えている。軸はシイタケくらいの大きさだが笠はかなり大きく掌くらいのサイズだ。


 これが俺たちの目的の物、『ホワイトラビット』と呼ばれる魔素をふんだんに蓄えた特別なキノコである。なんでも高級な回復薬には欠かせない一品らしい。


「あったな。俺が採るよ」


 受け答えをしてくれないクレアを尻目に俺はキノコを根っこから剥がした。

 俺達が遂行しているこの任務、採取クエストと呼ばれる種類の任務は目的の物を傷つけずに採取しなくてはならない。


 そのため俺は速さよりも丁寧さを重視して採取用の鞄に詰めていった。この鞄は魔法具で中に入れた重さが魔力によって数値化するというのものだ。

 俺は満杯になった鞄をクレアに渡す。


 クレアは無言で受け取り魔力を込めた。すると鞄の上の空間に五百十五の数字が表れる。クエストの正式な依頼は『ホワイトラビット・五百グラム以上・採取』なのでこれで任務達成だ。


 クレアは鞄を持ったまま踵を返した。


「あ、俺が持つよ」


 慌てて追いかけつつ俺はクレアから鞄を奪うように取るがそれでも彼女は反応しない。


「この鞄、便利だよな。ここに来るときに渡されたけど、こういう重量のわかる鞄、俺達の世界にもあればヒットすると思うんだ。向こうに帰ったらこういうの作って売ってみようかな」


 クレアは俺を一瞥したが、すぐにまた前を見る。

 悲しい気持ちが膨れ上がった。


「う……」


 つい声が漏れてしまう。


 その時、クレアはいきなり振り返った。


「へ?」


 その瞳には憂いと焦りのようなものが見えた気がする。

 情けない声を出した俺を叱責するつもりなのか?

 そうだとしたらその眼に宿る色は余りに儚くまるで泡沫のようだ。


 それでもその美しい瞳に魅入られドキっとする俺に彼女は松明代わりの炎が灯る右手を翳す。俺は意味がわからず呆然としてしまった。


 クレアの瞳が赤く燃える。

 その鬼気迫る顔が見えたとき、その掌中から空気を焦がす爆炎が俺に向けて放たれた。

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