第24話 抜殻
生気を失い、口をだらしなく開け、焦点の合わぬ目で教室の自席で呆けていた。
来ている服は黒い学ランなのに何故か他人からは真っ白に見える。それくらい悲壮感が漂っていた。
その様はあまりにも哀れで、
ロビンがアイガの手を引いて教室まで連れて帰ってきたがその道中もずっと本人に意識はなかった。ロビンにしてもアイガが何故あのような奇行に走ったのか皆目見当もつかず当惑している。
道中、何度かアイガに質問したが反応は終ぞ皆無だった。
二人が教室に戻ってきた時には既に購買部前のひと悶着が知れ渡っており全員の目が興味一色に染まっていた。
「え? あいつ、
「抱きついたらしいよ」
「速攻ふられたみたいだけど」
「何様?」
「最低じゃん」
罵声混じりの言葉がアイガに浴びせられたが今の彼には届いていない。右から左に流れるだけだ。
そのため反応しないアイガよりも一緒にいたロビンに事情を聴こうと皆の好奇心が集中してしまう。
ただ、ロビンも何故アイガがいきなりクレアに告白し、剰え抱き着いたのか、そして頬をビンタされこんな状態になったのか説明できなかった。
自分が見た状況をそっくりそのまま話しても誰も納得できないでいる。結果、皆の疑問が解消されることはなかった。
何人かは諦めずアイガに話しかけるがやはり反応しない。
そうこうしているうちにデイジーが教室に入ってきた。
「え? 午後の授業はマイケル先生じゃあ……」
誰かがそう発言したがデイジーの無言の圧力で全員口を噤み着席する。
「昨日の魔獣騒ぎにより一部授業が変更になると朝言ったはずだ。君たちには悪いが今日の授業はここまでになった。明日も通常の授業通りにいかないと思う。こればかりは申し訳ないが理解してくれ」
デイジーの言葉に皆驚いているようだ。どうやらまた授業内容が変更されてしまったらしい。しかもいきなり授業が終わるとは思ってなかったためか皆に動揺が広がっていく。
そんな中デイジーは物言わぬアイガの下へと向かった。
「おい、これはどういう状況だ?」
半ば呆れながらアイガを指さすデイジー。隣の席にいるロビンは先程同様上手く説明ができないため目を合わせないでいる。誰も答えないことに嘆息しつつデイジーはアイガの名前を呼んだ。
「全く……おい、アイガ」
デイジーの呼びかけに反応しないアイガ。
「おい!」
デイジーの大声に他の生徒はびくつくがやはりアイガだけは反応しない。
「おい!」
イラつくデイジーがアイガの肩を揺する。それでもアイガは反応しない。
「はぁ……」
デイジーは頭を抱えた。
そして懐から一枚の封筒を取り出す。
真っ黒の封筒だった。
それをアイガの目の前に翳す。
すると今まで何も反応しなかったアイガの瞳が微かに動いた。
「シャロン先生からだ。渡せばわかると言われているが……」
アイガは震えながらその手紙を受け取るとヨロヨロと立ち上がり、教室をあとにした。
今の今まで全く反応しなかったアイガが動き出したことと勝手に教室を出て行ったことにクラスメート達は皆一様に目を丸くする。
そんな中デイジーは教壇に戻り手を叩いて皆の注目を集めた。
「アイガのことは構わん。どうせ今日はもう終わりだ。ホームルームも以上だ。全員、帰っていいぞ!」
そしてデイジーもそそくさと教室を出て行く。
残された者たちは席に座ったまま茫然としていた。短時間に処理しきれないほどの出来事が重なり、全員が一様に対応できなかったのだ。
「え……と……帰ろうか……」
誰かが言ったその一言が教室に重く響いた。
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