第51話 クレア編~アルノーの森で
今回の任務は『採取』。
そして、採取するのは『ホワイトラビット』というキノコ。
魔素がふんだんに含まれたキノコで高価な回復薬の原料になるものだ。但し、このキノコは魔獣がうじゃうじゃいる深淵の森にしか生えない。さらに太陽の光がある間は魔素を放出してしまって、たいした効果を持っていないという面倒臭さも持っている。
だから夜に取りにいかないといけない。それにワープ魔法陣という便利なもののお陰で一瞬のうちにいけるけど、本来な三日くらいかかる場所にある代物だ。
兎に角面倒なクエストである。
気合を入れ、到着した場所は真っ暗な森の入り口。私はあまりの暗さにびっくりした。
とりあえず、魔法で右手に煌めく火炎を生み出す。松明代わりだ。
闇が少し晴れ、私とアイガは『ホワイトラビット』を目指すため森へと踏み入った。
初めてのクエストだが私は緊張していなかった。それよりもアイガのことが気になって緊張どころではなかったんだ。
魔素を蓄える性質から魔力を感知できるので私は探知魔法を発動する。サリーが教えてくれた魔法だ。これのお陰ですぐに森の最奥にある『ホワイトラビット』を見つける。
探知魔法は苦手なんだけど動かないものならなんとか探せるし一発で見つかってよかった。
ただ集中して持続していかないといけないのがネック。そうでなければ見失ってしまう。深い森でそんなことになれば遭難の危険もあった。
一応シャロン先生からいくつか魔法具は与えられているから遭難に対しては対策があるけれど不安は一杯だ。だから私は集中力を高め探知魔法を続ける。
そんな中、後ろでアイガが話しかけてくれていた。
本当は彼と会話したい。
こんな薄暗い森とはいえ久しぶりに二人きりで会って歩けているんだから。
でもそんな余裕はない。
探知魔法は精密さが求められる。右手で火炎を生み出しながら探知魔法を同時に行うのは実はかなり難しい。
それは例えるなら料理をしながら手紙を書くようなもの。
私は天才と持て囃されているけど恥ずかしながら精緻な魔法の操作は苦手だ。破壊や攻撃は得意なのだけど探知などは不得手。それでもやらなければならない。
探知魔法を発動している今ならどんな場所から魔獣が襲ってきたって即座に反応できるから。
私は普段の数倍以上の出力と集中力で探知魔法の精度と範囲を広げていた。
アイガを守るためにも集中を乱すわけにはいかない。
それでも頭の中には森をアイガと一緒に歩く妄想が広がる。初めてこちらに来た時も森だった。その思い出が一瞬で脳内に広がる。
だが、にやける自分の顔に気づきすぐに己を戒めた。
何をやっているんだ、私は。覚悟を決めたじゃないか。そう自分に言い聞かせ、『ホワイトラビット』の場所を目指す。
「この服、思ったより動きやすいんだな。生地も伸びるし」
アイガは今ディアレス学園の制服に着替えていた。
よく似合っている。
そう言いたかったけどそれを考えた瞬間、探知魔法が歪んだ。
いけない。集中しなければ。
私はすぐに魔法を立て直す。
「初めてここへ来た時と似てるな、クレア」
あ、アイガも同じことを考えていたんだ。
つい嬉しくなって頬が緩みそうになる。
それを私は奥歯を噛み締めて我慢した。
でも顔だけは無意識にアイガのほうを向いてしまう。
変な顔でアイガを見てしまった私は恥ずかしくなってすぐ視線を前に戻した。
やばい、今の顔、凄く不細工だったかもしれない。
また探知魔法が乱れる。
暫く歩いてやっと私は『ホワイトラビット』を見つけた。
そこにあったのは空まで聳えるほど大きな大樹。大地を食らわんばかりに根を張り、太く逞しいその巨大さは元いた世界では決してお目にかかれないほど立派だった。
その根に『ホワイトラビット』がある。
「あったな。俺が採るよ」
アイガが率先して採取してくれた。
私は探査魔法の精度を少し落とす。『ホワイトラビット』を見つけたのであとは周囲に気を張り巡らせる分だけで十分だから。
少し疲れた。
それにしてもどうしてだろうか、今日はやけにしんどい。
怒りすぎて体力を失ったのか、それともアイガがいるから舞い上がっているのか。
魔法の精度はすぐ乱れるし、今も会話ができないくらい疲れている。数秒待てば回復してくれるけどなんだか風邪を引いた時のような不調を感じていた。
もしかしたら本当に風邪でも引いているのかもしれない。
ただ、アイガがいるから気持ちが高ぶって気づいていないだけも。
そんなことを考えているとランガが『ホワイトラビット』を収穫した鞄を渡してきた。
あぁ、そうか。
アイガは魔力がない。だからこの魔法具が使えないんだ。
これは『包み込む天秤』というアイテム。
中の重さがわかる便利な魔法具で採取クエストの必需品だそうだ。シャロン先生より渡された魔法具の一つで魔力の度合いによっては毒や危険物かどうかもわかるらしい。
本当、便利な道具。
でも、これを発動するのに必要な魔力なんてこの世界じゃあ幼稚園児並みの量で十分。
それすらも使えないなんて、やっぱりこの世界でアイガは生きられない。剰えディアレス学園に入学したなんてやっぱり無謀だ。
それを改めて思い知る。
どうにか、わかってもらわないと。
そう考えながら私は鞄に表示された数値を見た。指定された量に達していたのでそのまま担いで踵を返す。
その時、ひょいとアイガは私が持っていた鞄を持ってくれた。
優しいな。やっぱりアイガは優しい。
そんな彼をどう説得すればいいんだろう。
言葉じゃあ彼を説得できない。
どうすればいいんだろう。
どうすればいいんだろう。
どうすればいいんだろう。
その言葉ばかりが私の脳を埋め尽くしていった。
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