第64話・最終試験後・04


『……というわけでしてね。あの大判、オークションに出す事にしたんですが、

 主催者の話では少なく見積もっても2億は下らないと言っておりやして。


 いやもう、ホントに感謝しかありません!

 安武やすべさん、どうかぬし様によろしく言っておいてくだせえ!!』


あれから一週間ほどして―――

俺は『島村建設』の社長から、お礼の電話を受けていた。


記録の照会から盗品の疑惑は無く、また建設途中で何らかの埋蔵された品を

掘り出してしまう事はよくあるらしく、


状態も良かった事から、業者からオークションへの出品を勧められ……

1枚3,000万円くらいはいくだろうと予想されているという。


「そうか。え? お金? いやそれは困る。

 税金関係って結構うるさくて、この前も税務署の人間が来たんだ。

 勘違いだったけど。


 主様が言っていたように、1年後また来る時にでも持って来て

 くれりゃいいから」


お礼として1,000万円ほど振り込みたいというのを辞退して、

俺は通話を終えた。


「はー……これでようやく一段落か」


俺はスマホを置くと、仕事場に運び込んだベッドの上へ仰向けに倒れる。


「たっだいまー」

「お腹減ったべえ」

「ミツ様ー、お昼ご飯出来てます?」


腹ペコどもの帰宅と声を確認すると、俺はやれやれと上半身を起こした。




「はー、一仕事終えた後の食事はオイシー♪」


理奈りな』=倉ぼっこがかき込むようにご飯を食べながら語る。

ちなみに昼食はすでに作っていたのを、温め直したものだ。


「それで、主様の様子はどうだった?」


「いつでもお風呂に入れるのと、ベッドで眠れる事に感謝していたっぺよ」


「それとトイレですねー。

 主様の気持ち、同じ女性としてすごーくわかります!」


ぎん』=川童かわこと『詩音しおん』=野狐やこも食べながら続く。

というか詩音は男だろうというツッコミも、もはやする気も無く……


「それと、自分で料理を作れる事に感動していたね。

 まだ簡単な卵焼きとかインスタントラーメンくらいだけど」


「普段の食生活ってどんなものだったんだ?」


理奈の言葉に何気なく俺が聞き返すと、3人とも微妙な表情になり、


「川のそばで魚を焼いた跡を見た事はあったべが」


「正直、ミツ様に会う前のアタシたちと五十歩百歩では」


確かに、山の中で住むしかないとなればサバイバル生活そのものだ。

それに理奈や銀には俺の爺さんが、詩音は人間に化けて食事をゲットする事も

出来ただろうけど―――

あの鬼っ子は主として、恐らくそんな事は出来なかっただろうし。


「なかなかハードな生活だったんだな。


 ま、お前たちも最終試験とやらには合格したんだし、週一くらいで何か

 届けてやってくれ」


「そうだね。それに発電機? あれも充電しなくちゃならないし」


理奈がおかわりと言わんばかりにお椀を差し出し、俺はそれを受け取って

ご飯をよそう。


「しかし本当にいさぎよかったというか……

 まああれだけの目にあえば当然か」


俺は3人から聞いた、最終試験での出来事を思い出して話を振り―――

彼らも思い返すかのようにその話題へと移った。


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