第80話・弥月加奈視点04


「う……こ、ここは……」


目が覚めると、私は見知らぬ部屋で寝かされていました。


周囲を見渡すと和風で、床は畳。

お布団を上げ、上半身を起こして体を確認しますが―――

特に何かされたという事はないようです。


「どういう事でしょうか。

 あのあやかし、敵ではなかったという事……?」


しかし、ここは相手の本拠地には違いなさそうです。

いたって普通の、人間が住んでいる和室に見えますが―――

妖力がそこかしこに感じます。


しかし、見張りも置かないとは……

特に拘束もされていません。


間が抜けているのか、それとも逃げたところで無駄だという自信の表れ

なのでしょうか。


するとそこに先ほどの気配がして―――


「あ、起きましたか?

 ここ、本当は客室に使っているのですが、同じ女性の部屋が

 いいだろうと思いましてこちらに」


彼女……いえ、『彼』です。

外見上は長い銀髪をした、細面の美人にしか見えませんが。

私のお腹で、あの存在と感触はしっかりと確認しているので……


「驚きましたよ。

 アタシが気付いた時にはなぜかあなたが気を失っていて……」


そこで用意された飲み物をすっ、と私に差し出す。

毒は無いでしょう。何かするつもりであれば、眠っている間にすれば

いいだけの話ですし。


少し口にして、改めて彼を見ますと―――

どう見ても女性にしか見えません。


「どうかしましたか? アタシの顔に何か……」


「あ、い、いえ。

 綺麗な方だあな、と思いまして」


「そう言ってもらえると嬉しいですわ」


たいていの男ならだまされるでしょうし、男性とわかっていたら

それこそ女性は一瞬で落ちるでしょう。


しかし私だってこんな程度では負けません。

何せこの国の二次元で鍛え抜かれてきたのです。


それに私の理想は目の前の『彼』のような、中性的な美青年・美少年ではなく、

カッコイイ系の日焼けした肌が似合うような細マッチョで―――


「どうだべ、詩音しおん。もう目を覚ましただべか?」


「あ、銀さん」


そしてカッコイイ系の日焼けした肌が似合うような細マッチョが登場した事で、

私は全ての警戒心を解きました。


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