第81話・爆弾


「あ、本当に弥月みつきさんだ……」


「お、お邪魔しています」


火曜日の昼過ぎに帰宅すると―――

同じ会社の社員であるグラフィッカーの女性がそこにいた。


「いやまあ、事のあらましは自分も聞きましたから。

 でもアイツら、何か悪さしましたか?」


「いえ、そういう事では無いんですが……」


先日、家に訪問客が……しかも人外に対するエキスパートっぽいのが

来たと理奈からメールが入り、そこにその人物の顔写真も添付されて

きたので裕子さんと一緒に確認したところ、


それが弥月さんだったので、二人して混乱し―――

別段、敵対関係とかではないと聞いたので、取り敢えず先に戻る俺が会って、

事情を聞く事になった。


そして武田さんもビデオ通話でこの事情聴取に参加し、


詩音しおんさんとトラブルがあったとか?』


「そ、それはまあ相打ちというか……ね?」


「も、申し訳ございません……」


長い銀髪をした野狐やこと弥月さんが気まずそうに答え、


「昔の陰陽師おんみょうじとか拝み屋みたいなモンだっぺ。

 まあ、話せばわかるようだから危険は無いだよ」


川童かわこである銀がそれに続く。


「何かね、武田さん? から突然妖力の気配がしたので、

 それで気になってここまで来たらしいよ」


そこに倉ぼっこ=理奈りなが飲み物を持って入って来た。


まあこうして大人しくしているという事は、向こうも危険は無いと

判断したって事だろうけど―――


「妖怪退治のエキスパートと聞きましたが」


「あ、はい。弥月一族はそういう家系でして」


俺の質問に彼女が受け答えし、話は進んでいった。




『……まあ、私の事を心配しての事らしいので、

 怒るに怒れないっていうか』


端末の画面の中で、裕子さんが両腕を組む。


「完全な行き違いというか―――

 どちらも話せない、話しにくい事だからなあ」


こっちは妖怪と暮らしています、何て公言は出来ず……

弥月さんも、私はあやかしを狩る一族です、なんて言えるはずもなく。


「じゃあ、妖怪に脅されているとか、協力しているわけじゃないんですね?」


ポニーテールの部下の質問に上司が髪をかき上げ、


『そこにいる理奈さんと銀さんは、安武やすべさんの祖父に最後まで

 付き添っていたし、幼馴染おさななじみでもあるのよ。


 詩音さんは野狐の一族が自分たちの長に安武さんを、って言っているだけで、

 別に積極的に関わっているというわけじゃないわ』


少しビジネスライクに思えるが―――

あくまでも対等な付き合いだという事を裕子さんは強調したいのだろう。

そしてそこに他意は無いという事も。


「そ、そうだったんですか……」


上司である彼女の説明に弥月さんは納得したようだ。

これでだいたい話は終わりかな、と思っていると、


「それで、あの―――


 武田部長と安武さんはどのようなご関係なのでしょうか?

 安武さんについてずいぶんとお詳しいようですけど」


そこで今日一番の爆弾に着火された。

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