第262話・移住者2号3号・07


『……おい』


「何だ、お前か?

 ちゃんとついて来ているんだろうな?」


老舗旅館『源一げんいち』を後にした男2人は、それぞれの車で

走り続けていたが、


スマホを通じて一方から連絡を受けた男は、運転しながらやり取りする。


『いや、ちょっと妙じゃねぇか?

 何だか、同じところをグルグル走っているような』


「俺が道を間違えたっのてか?

 じゃあ、お前が先に行けよ。俺が後からついていく」


『わかった、道を譲ってくれ』


そして彼らは前後を入れ替わり、走行を継続し―――




「……おい、何かおかしくねぇか?

 かれこれ1時間は走っているってのに、山道から抜けられねぇ」


『ああ。どうなってんだいったい……

 まさかこの令和の世の中で、狐にでも化かされているってのか』


「くそ、電波もろくに通じねぇし―――

 とにかく走り続けろ、いつか普通の道路に出るだろ」


彼らは異常事態を認識し、困惑していたが……

それでも走り続ける以外の選択肢は無かった。




「どうしたにゃ? 人見ひとみクン」


一方、彼らを送り出した『源一』では―――

片側の目を髪で隠した少年に、姫カットの女性が話しかけ、


「今、野狐やこさんたちから連絡が入りました。


 これから日暮れまで迷わせ続けて、夜になったら百鬼夜行ひゃっきやぎょう

 見せてやるとの事です」


『一つ目小僧』はスマホを見ながら、『猫又ねこまた』に応じる。


そこへボサボサ髪の青年が姿を現し、


「いいフルコースでのおもてなしですねぇ。

 これでアイツらも、もうこの地に近付こうとはしないでしょうや」


時雨しぐれ、いつの間に野狐さんたちに連絡したんだにゃ~?」


唐傘からかさお化け』に麻夜マヤが問うと、


「なぁに、昨日のうちでさ。


 麻夜と人見もあの連中、ヤバいって見抜いたんでやしょう?

 それで連絡を取ってスタンバイしてもらったんでさあ」


「まあこれで、当分は静かに暮らせるにゃ~」


そこに旅館の女将さんがやって来て、


安武やすべさん、推古すいこ君、それに白波瀬しらはせさんも―――


 午後からまたお客さんが来るから、今のうちに出迎えの準備をしておくれ!」


彼らは銀と同じくすっかり旅館の顔となり、まず真っ先にお客さんを迎える

メンバーとして定着していて、


「わかりやした」


「今すぐ行きます!」


「ほ~い」


返事をすると3人は、旅館の正面玄関から建物内へ入っていった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る