第261話・移住者2号3号・06


「……はっ!?」


気絶した暴力団の男が目覚めたのは、自分が取った客室。

体を調べるが、汗でびっしょりになっている事以外は、特にどうという

事も無く―――


「夢……だったのか?」


庭園で銃の取り引きをしていたところ、妙な従業員がやって来て―――

それから急に集中豪雨のような雨をくらい、慌てて銃を拾おうとした

ところで、意識を手放した。


「! そうだ、銃は……!?」


彼は慌てて飛び起き、カバンの中を確かめる。

するとそこにはきちんと、その非合法の物が入っており―――


「ただの勘違いだったのか?


 いや、取り引きをしたのならコレがここにあるのはおかしい。

 金を受け取って、コイツを渡していないと」


そこへバタバタと足音がして、ふすまが開かれる。


「おい、大丈夫か!?」


そこに現れたのは取引相手だが、彼はすぐに片手で制し、


「静かに……!

 カタギのふりをしろい!


 それよりその様子だと」


「ああ……って事は、夢じゃなかったってワケだな」


お互いが様子を見て察したのか―――

顔を見合わせてうなずく。


「どうする?」


「日中じゃいくら何でも目に付き過ぎる。

 従業員か、他の宿泊客に見られるかも知れねぇし……


 仕方ねぇ、ここを出てどこかの山道で渡す」


「そうだな」


そこで彼らは旅館での取り引きを諦め―――

ひとまず出る事になった。




「ありがとうございましたー」


「またのお越しをお待ちしておりますー」


朝食を終えた彼らは、何事もなかったかのように見送りを受け、

それぞれが車に乗り込む。


「どこで渡す?」


「とにかく走らせよう。

 この辺りなら、人目に付かない道なんざいくらでも」


そう彼らが車越しに話しているところへ、『時雨』が従業員の和服で

いつの間にか近付き、


「う……っ!?」


「てて、てめぇは……!」


うろたえる二人を見ても彼は何も動じず、


「頭は冷えてございやすかい?


 あと、『その』取り引きをするのであれば、山の中は避けた方が

 よござんすよ。

 山の神様は、鉄を嫌うって聞きやすぜ」


和やかに話す青年を見て、彼らは慌てて車のアクセルを踏み―――

逃げるかのように旅館を後にした。


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