第260話・移住者2号3号・05


「そいつぁ、ちょっとゴメンこうむりたいものでござんす」


「!?」


「誰だ!?」


いきなり現れた人物の声に、男2人は振り向くが―――

そこにいたのは作務衣さむいに身を包んだ、まだ二十代前後と思われる青年で、


その懐手ふところでした様相に、異様な貫禄かんろくを覚え……

外見こそただの小太りのサラリーマンの親父だが、中身は暴力団の2人は

その非合法な武器を手にして構える。


「いやいや……こっちは丸腰ですぜ?


 それにこんなのどかな、それも見事な満月の下で―――

 そういうみっともない物を出すのは無粋ぶすいじゃありやせんかねえ」


その言葉に二人は、銃を持った手を下ろすも手放さず、


「おめぇは確か……この旅館の」


「どういうつもりだ?」


明らかに反社会的な男たちは、その意図を彼に問いただす。


「ですからね、ここをそういう取り引きの拠点にするって話ですよ。


 ここにそんな物は似つかわしくありやせんや。

 出来れば、二度として欲しく無いんですが」


飄々ひょうひょうとした青年の言葉に、


「あぁ? だからなんなんだよ」


「おめぇが目をつぶっていりゃいいだけの話だろうが。


 今なら一発大人しく殴られりゃ、見逃してやらんでもねぇぜ」


いよいよ反社会的な姿勢を隠さなくなった彼らは、青年に

歩み寄るが、


「だからそういうのが無粋なんですって。


 ほら、今は夜ですがお天道様てんとうさまもおっしゃっておりやすぜ。

 頭を冷やせ、って」


青年が人差し指で上を指差すと、途端にゴロゴロと音が天候が悪くなった

事を告げ―――


「げほっ!?」


「うげぇっ!?」


一瞬の後、まるで巨大なバケツをひっくり返したかのような雨が

彼らを襲い……

手にしていた銃が手放される。


二人は慌ててしゃがみ、銃を拾おうとするが、


「だから言っているでやしょう。


 そんなみっともない物は手放せって」


いつの間にか男も目と鼻の先でしゃがみ込んでおり、

それを見たのを最後に、彼らの意識は途切れた。


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