第238話・解決01


「……以上を持ちまして、今回の事件及び対処は終了となります。

 みなさん、お疲れ様でした」


「「「お疲れ様でした!!」」」


特別第六課の入ったビル、その会議室で―――

人間ベースのあやかしの組織、その対応が終わった事を、

事実上のトップである琉絆空るきあさんが告げる。


「酒は無いのか、つまらんのう」


「ここは一応公務の席だから」


鬼の舞桜さんが残念そうに話す。


他には俺と裕子さん、理奈、そして加奈さんと銀、詩音もおり、


「解決……と言っていいんでしょうかね」


「仕方ねぇよ。結局―――

 『無かった事』にしか出来なかったからな」


男性職員と、その彼とは雰囲気が異なるアラフォーの男が、複雑そうな

表情で会話する。

そういえばあの人は初めて目にしたな、と思っていると、

琉絆空さんが近付いてきて、


「特別第六課の話を弥月家に持って来たのがこの方です」


「ええ。自分は捜査第一課の刑事部長です。

 殺人や傷害事件、誘拐などを担当する部署ですね」


あいさつがてら、こちらに自己紹介してくる。

しかし殺人犯とかを相手にする方か……

なるほど、かなり目付きが違う。


「関わった手前、初めての案件でもありますし気になりましてね。


 ですがこちらから要請したのに、こんな結果に―――」


すると女子高生くらいの身長と童顔をした倉ぼっこが口を開き、


「何かあったのー?」


「グチにしかなりませんが、上層部が二転三転したらしく。


 最初から人外相手の組織だと説明したはずなのに、

 秘密裏にするのはどうかとか、法整備は出来るのかとか

 まあいろいろと」


大きなため息をつく彼に思わず同情する。

そりゃあ発火する罪とか風を起こす罪とか、無茶にもほどがあるだろう。


「ならば対テロ組織のような存在として設立して欲しいとも

 頼んだのですが。


 いざとなったら上の連中、責任問題になるのを嫌がって……」


「何か大変だべなあ」


「世知辛い……」


銀と加奈さんがそのグチに付き合い始める。


「そういえば詩音さん、ミツヤ君は?」


「あっちで着せ替え人形になっています」


裕子さんの問いに詩音がある方向を指差し―――

見ると女性職員たちの間でもみくちゃにされる、おかっぱ頭の

野狐やこがいて、


「注意してこようか?」


と、琉絆空が行こうとするのを舞桜さんが肩をつかんで止め、


「女の集団がお楽しみのところに飛び込むとは命知らずじゃな」


「適当なところでアタシたちが言っておくからいいですよ」


そこで和やかな雰囲気になりかけるが、そこで第一課の彼のスマホが

鳴り響き、


「……はい、はい。

 ですからそれは最初からご説明申し上げたはずですが。


 どうにもなりませんよ。

 捜査令状も何もない、証拠も無い。

 え? 容疑者として捕まえれば何とでもなる?


 正気で言っているんですか……!?」


どうやら上の方からまた何か無茶ぶりをかまされているらしい。

通話はたったの数分ほどだったが、終わった後の彼は疲れ切った

表情をしていて、


「……ねーねー、ちょっとスマホ貸して?」


「?? もう通話は終わっているが……」


理奈はスマホを奪うように受け取ると、


「ん、そうそう。キミのスマホの履歴とかわかるー?


 おーおー、何かエグいのを見ているようだね。

 勤務中に何しているんだか。


 わかった。ちょっとメールにしてこっちに送ってよ」


そしてスマホを元の持ち主に返す。


「いったい何を? ん……メール?


 うわ、何だこのアダルトサイトの羅列られつは。

 え? まさかアイツ、こんなサイトを勤務時間に!?」


すると彼は理奈にブンブンと頭を下げて、


「ありがとおぉううぅ!!

 これで次会った時、皮肉の1つと言わず嫌味で返してやれるぜ!!


 あ、君! ハイテク対策課に興味無い!?」


「それは弥月家と、特別第六課を通してねー」


と、理奈がその能力を発揮し―――

捜査第一課の刑事は、喜んでその『情報』を持ち帰った。


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