第192話・廃ビル01


「おう」


「……はい?」


郊外の駅にその男が降り立ち、ある程度人通りの無くなったところで―――

亮一りょういちは尾行を止めて声をかけた。


「何でしょうか?」


その20代と思われる、特に何の特徴も無い青年はきょとんとした

表情で聞き返すが、


「お前、東京にいた時……あるヤツと話していただろ。


 あれ、俺にドラッグを渡したヤツなんだよ」


「はあ、ドラッグ―――ですか?

 あのう、いったい何の事を言っているのかわからないのですが」


彼は首を傾げて疑問と共に聞き返す。

するとアラフォーの金髪の男は胸倉をつかみ、


「とぼけてんじゃねぇよ。

 それで俺は警察のお世話にまでなっちまったんだからな。


 あそこで通報しても良かったが……

 逃げられるかも知れねえと思って、てめぇを尾行けて来たんだ。


 アイツについて知っている事、洗いざらい話してもらうぜ」


180cm超の長身の男にすごまれ、さすがに青年もその腕を

ギブアップするようにタップし、


「と、とにかく落ち着いてください。

 ここじゃ何ですし、場所を変えませんか?」


そこで亮一は手を放しその男を解放して、その提案に乗る事にした。




「あそこかぁ? 廃ビルのようだが」


「人気の無い場所で、と言ったのは貴方あなたでしょうに。

 それにここ、地元じゃ心霊スポットとして有名なんですよ。


 まあまだ夕方ですし、誰も来ないでしょう」


青年の案内で、彼はとある寂れた雑居ビルのような廃墟に来ていた。


「妙なマネはするんじゃねぇぞ、痛い目にあいたくないのならな。

 それに大人しく従っているって事は、お前も警察沙汰は避けたい

 クチだろ?」


「誰だって警察沙汰は嫌ですよ。それに痛いのはもっと嫌ですから。

 じゃあ、中に入って『お話』しましょうか」


埃まみれの入口から青年を先頭にして亮一は続き……

そして階段を上がっていった。


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