第41話・野狐たちの思惑・野狐視点02


「うまい! うまい! うまいぞおぉおおお!!」


「このようなネズミが都会で売っておるのか……!

 何というまろやかさ、それに柔らかい!」


「ほんにその通りじゃ! もはやあの筋張すじばった野ネズミには戻れん……!」


ここはミツ様の家から少し離れた山であり、アタシたち野狐やこ住処すみか

そこで彼に調理して頂いた冷凍マウスの天ぷら、から揚げを、みんなが

一心不乱いっしんふらんに食らいつく。


「アタシも、もう野ネズミは獲らなくていいと言われました。

 今後はこちらを購入、差し入れしてくださるとの事なので―――


 あ、あと冷凍マウスのお話はもともと、武田様が提案してくださった事です」


「おお、あの方か! 本当に有難い事じゃ」


「この地であのお2人が夫婦になられ、この辺りのあやかしの長となって

 頂ければ……言う事は無いのだが」


次々と希望に満ちた話が飛び出る。それも夢物語ではなく、可能性のある話。

ついこの前まで、ただのけものに墜ちようとしていたアタシたちには―――

考えられない事だ。


「そういえば長老、アタシと同じく人の姿に化けられる者が出てきたと

 聞きましたが……」


「うむ、そうじゃ。化かしてまぼろしを見せるようなものではなく、人の姿を

 維持出来る者が現れ始めたのじゃ。


 これはミツ様や奥方様に触れた事で、妖としての力を取り戻しつつあるに

 違いない……!」


「このまま昔のような力を使えるようになれば―――

 いずれはあのお2人の子と縁を結ぶ事についても、何の問題もありますまい」


みんなが明るい展望を口にする。

アタシにも女の子が生まれたら嫁に、という話があるので他人事ひとごとじゃ

ないんだけど。


確かに妖の身としてもあのお2人の子なら将来有望だろうし、願ってもない

話というのはわかっている。でもアタシは当初ミツ様のお相手として、

一族代表として送り込まれたのに、何か複雑な気分……と思っていると、


「それにしても、またミツ様の兄上がやらかしたらしいの」


「は、はい。彼が川童かわこと協力してうまくあしらいましたけど」


そこで長老を始め、他の年長者の狐も顔を見合わせ、


「ほんにどうしようもない御仁ごじんじゃのう」


愚兄賢弟ぐけいけんていとはよう言ったものだ」


「そろそろ我らが動くべきか―――」


何やら不穏な空気になっているが、アタシも止める気は無い。

むしろすぐにでもやって欲しいと願っている自分がいる。


他のみんなも同じような空気が形成されつつある中、一陣の風が

舞い込んだ。


「何やら物騒な話をしているようだな」


「……何者!?」


群れの全員がその声に振り返ると、そこには十才くらいの子供が立っていた。

ただその頭には角が二本あり、和風の着物から露出した肌は真っ赤で―――


「山のぬし様でありますか……!?

 どうしてこのような場所へ」


長老以下、全員が身構えるように姿勢を正す。

ただそれは立場の差から来るものではなく、圧倒的な力の差とでもいうべき

圧力に押されてのもの。アタシも気付いた時には両膝をつき、


「何、最近ここらが騒がしくなったと思ってな。

 あれだけさびれていたにも関わらず―――

 それで……何か変わった事でもあったのか?」


そして、その『鬼』を中心に仲間たちは輪となり、事情を説明する事になった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る