第40話・自業自得


『ちょっと!! あなた、お兄ちゃんに何したのよ!?』


ある日俺は、スマホから開口一番怒鳴り声を聞かされていた。

相手は一応血の繋がりのある母親だ。


「何がって、何がだよ」


面倒くさそうに俺が返すと、


『お兄ちゃん、入院しちゃったのよ!?

 何でもどこかの格闘技ジムでケガさせられたらしくて……!』


格闘技ジムといえばまあ心当たりはある。

恥をかかされたあの連中が、合宿出来ると騙された腹いせに……ってところか。

俺はとぼけながら、


「で? それが俺に何の関係あるんだよ。話が全然見えねぇんだが」


『お兄ちゃんから聞いたのよ!!

 あなた、お兄ちゃんが管理人として用意してあげたお客さんを、

 勝手に追い返したそうじゃない!』


俺はあくびをしながら、


「あ~……すっっっげぇ迷惑だったわ、アレ。

 誰の許可を得て勝手に人の家を貸そうとしてんだか」


『お兄ちゃんはあなたの家の管理人なのよ!! この前決めたでしょ!!』


「お前が勝手に決めた事なんて知るかよ。契約と所有権が全てです。

 それも警察に全部確認してもらってまーす。

 で、俺がアイツを管理人にしたなんて書類がどこに?」


俺の返しに向こうで口ごもる声が聞こえ、そのまま続けて、


「それにねぇ、管理人って何よ管理人って。

 一体何すんだ? 別に邸宅やお屋敷ってほどデカくもねーだろ。

 一応個人の家だぞ?


 そりゃ無職無収入よりは聞こえはいいかも知れねぇけどさ。

 でも情けなくね?

 弟の家の管理人やらせてもらっていまーすって」


『何よその態度は!!

 弟であるあなたが頭を下げて頼むのが当然でしょ!?』


俺はおおげさにため息をつくと、


「頼む理由がどこにあるんだよ。


 家事も何も出来ねぇ、ろくに働いた経験もねぇ。

 それでいて威張り散らすしか能が無いだけの生ゴミに」


『も、もういいわ!

 これからお兄ちゃんが入院している病院に行かなくちゃならないから―――』


そこで通話が切れ、ようやく俺は無意味なやり取りから解放された。


「どしたの、ミツー」


「何か嬉しそうな顔しているだべが……」


いつの間にか倉ぼっこと川童かわこが俺を見上げる。

どうやらあのクソ兄貴が入院したと聞いて笑顔になっていたようだ。

俺は顔をパンパン、と叩くと、


「んー、まあなるようになったというか。

 アホがその報いを受けただけというか。

 そういえば野狐やこは?」


「野狐ちゃんなら狩りに出かけているよー。

 もう野ネズミ捕まえなくてよくなったから、大物狙うって」


「すごい張り切っていたべよ。イノシシとか獲ってくるんでねぇべか?」


「あまり危ない事しなくてもいいんだけどなぁ」


俺は不安そうにふと外に目をやると、


「そういえばミツ、いつから仕事?」


「今月いっぱいは……って話だったけど、裕子ゆうこさんからまだ余裕が

 あるので、もう一ヶ月くらいは休んでも大丈夫だって聞いた。


 何か彼女もその間にいろいろ、こっちに運びたい物もあるそうだ」


「……ゆくゆくはあの人、ここに住む気だべか?」


「どうだろうなぁ」


そんな事を2人と話しながら俺は居間へと移動し―――

お菓子タイムへと突入した。

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