第39話・お試し冷凍マウス


「……うへ。こんな物まで通販で買えるんだな」


「でも、こっちの方が肉っぽく見える」


「うん。ちゃんと処理してあるからか綺麗だべ」


俺は冷凍マウスのパックを手に、倉ぼっこと川童かわこと一緒に

それを見つめていた。


「はぁ、はぁああ……そ、それ早くちょうだい、早くぅ♪」


その近くで野狐やこが体をクネクネさせながらおねだりする。

女の子のような顔で上気しながらヨダレを垂らしているせいか、

別の何かを要求されているような気分だ。


週末が終わり裕子ゆうこさんが東京に帰った後、日常が戻って来ていた。

ただ帰る前に彼女からペット用の冷凍肉の存在を聞き―――

試しに一度購入してみる事になった。


聞けば裕子さんは大学生時代、実験用ラットの世話をするアルバイトをした

経験もあって、小動物系についてはそれほど拒否感は無いらしい。


そして配達してもらったそれをみんなで確認・観察していた。

しかしこんな地方まで来るとはさすがアマ〇ン。


「取り敢えずまあ、揚げてみようか。

 無菌って書いてあるし、台所で普通に調理しても問題ないだろう……多分」


野狐が獲ってくる野ネズミは当然処理などされておらず雑菌の塊。

なので揚げるにしろ料理するにしろ、手袋やら消毒やらで細心の注意が

必要となる。


だがこちらは人間が扱う事が前提で処理されている。

素手で触っても問題ないし、ノーマルな食材として調理が可能だ。


俺は人外3人組と一緒に台所に向かうと、彼らを見学者としてから揚げと

天ぷらを作る事にした。




「あぁあ……だ、ダメ……です。野ネズミとは比べ物になりません!

 もうこれ無しでは生きられない体に……!」


恍惚こうこつの表情で、野狐が調理されたネズミのから揚げや天ぷらを食べる。


「ま、まあ確かに……」


「こうして見ると普通の揚げ物だべ。頭としっぽに目をつむれば、だけど」


確かに、あの野ネズミの物よりはいくらか見た目がマイルドになっている。

それをお箸で器用に食べる野狐の姿は、普段の食事風景と変わらない。

ただ時々牙が見え隠れするので、やはり人外なのだな、と思う。


「ご馳走さまでした……」


食べ終わった野狐はお箸をおいて、拝むように両手の手のひらをつける。


「そんなに美味おいしかったのか。

 じゃあ、これからは野ネズミを捕まえて来なくてもいいんじゃないか?」


「え? と、という事は今後全部これに!?

 いいんですか!?」


彼女(男の娘だけど)が目を輝かせて聞き返してくる。


「ミツ、お金大丈夫?」


「結構する感じだべが」


倉ぼっこと川童が心配そうに聞いてくるが、


「実際、野ネズミなら原料費はタダだろうけど―――

 調理する際の使い捨ての手袋とか、他の食材と分ける手間や処理、

 衛生面を考えるとなあ。


 これなら台所で料理出来るし、俺の精神的にも楽」


正直なところ、外で調理する度にいつ『源一げんいち』の人とかに見られるか、

いつもヒヤヒヤしながら作っていたからな。

それに雨が降ったら外で火は使えないし、いつでも提供出来るようになるのは

野狐の群れに取っても朗報だろう。


「え~……いいなぁ、野狐ちゃんばっかり」


不満を口にする倉ぼっこに俺はため息をついて、


「お前、裕子さんにスイーツねだったって聞いているぞ。

 彼女から、私も半分出しますのでって何か買ってあげてって

 言われているんだ。


 あまり甘やかさないでくれって言ったんだけど―――

 一緒に買うのなら、まぁいい」


彼女にそう言うとパアッと顔を輝かせ、


「川童はどうする? 無農薬のキュウリとか買っとくか?」


「いや、オラそんなにキュウリ大好きってわけじゃないべよ」


「あ……じゃ、じゃあアタシもスイーツいいですか?」


「え~、だって野狐ちゃん冷凍マウス買っているのに?」


「だ、だってあれは仲間の分がメインと言いますか―――」


そして俺は人外3人組とショッピング画面をのぞき込みながら、

買う物を話し合った。


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