第38話・合宿?その後・亮一視点


「チッ! またスッちまったぜ。ぜってー裏で操作してんだろあの台」


なけなしの金をパチンコに吸われた俺は、新たな金策に頭を悩ませる。


ババアから、俺があの田舎の家の管理人になったと聞かされた時―――

真っ先に考えついたのが、あの家を貸す事だった。


とはいえあんなド田舎、誰が好き好んで暮らすかというと……

あのコミュ障の満浩みつひろくらいしかいないだろう。

アイツ、ガキの頃から喜んであの田舎に行ってたくらいだしなあ。


どうせアイツには都会は似合わない。もうちょっと大人しく、俺にずっと

従っていりゃあ、人生の先輩として女の1人も都合してやってもよかったん

だけどよ。


アイツは昔から俺に対してコンプレックスを抱いていたのか、事あるごとに

反抗してきやがった。

身長差も体重差もあるクセに生意気なんだよ。まあその度に体でわからせて

やったが。


高校を卒業する頃には悪知恵をつけて、いつの間にか空手や柔道を

こっそりマスターしていやがった。

俺もそれなりに酷ぇ事をしてきたのは反省しているし、アイツもネチネチと

根に持つタイプだとわかったから、それからは手を出すのを止めてやった。


だが俺が譲歩すればするほどアイツは図に乗り―――

今では何ひとつ俺の言う事を聞かねぇ、どうしようもないバカに成り下がった。


そんなバカでも俺の役に立てるようにと今回、知り合いにあそこを合宿所として

紹介し、使ってやる契約をした。

きちんとお金を取っての仕事だ。俺が管理人になったからには、ちゃんと活用

してやらなきゃあな。

アイツも兄である俺のために働く事が出来てきっと嬉しいだろう。


金は……アイツはいらねぇだろ。どうせオタクっぽい趣味しか持っていない

だろうし、若者らしい事に俺が使ってやった方が金も喜ぶってもんだ。

昔からババアもそう言ってあのバカを注意していたんだが、わかろうとも

しなかったし。

言ってもわからねえのなら、こっちで全部使っても問題ねぇだろうよ。


それにあれから一週間以上経つが、先方からも何の連絡もない。

当日パチンコをしていた時に着信はあったようだが―――

何かあればまた来るだろうと放置していたけど、結局それからはメールも

着信も無い。

つまり取引き第一号としては成功したんだろう。

これだけで十数万とは美味しい仕事だ。

アイツみてえなバカにゃ出来ないね。さて実績も出来た事だし、次はどこに

貸そうかなっと。


「おう、安武やすべ


「あぁ? 誰だテメ……

 あー、これはこれは。合宿はどうでしたか?」


突然呼ばれた声に振り返るとそこには、俺があの家を合宿所として紹介した

格闘技ジムの知り合いがいた。


「……ああ。お前に『お礼』がしたくてよ。探していたんだ」


そう言われて俺はスマホを取り出す。しかし着信履歴やメールなどはなく、


「すいません、スマホに連絡してくれりゃ―――」


「いや、どうしても直接お前に会って話したくてな」


何やらニコニコしていて上機嫌のようだ。

よっぽど合宿とやらが楽しかったのか?


「しかしお礼とは律儀ですねえ。代金も前払いで頂きましたし、

 そんな事までしなくてもいいのに」


「いやまあ、そんなんじゃ俺の気が済まなくてよ。

 これから時間あるか? ちょっと付き合ってもらいてぇんだ」


タダで飲み食い出来んのなら大歓迎だ。それに酒のさかなに、あのバカが

どういう目にあったのか知りてえし。


「いやそんな、でもお誘いを断るのも失礼ッスね」


そして俺は彼についていった。




「ちょっ、え、は……?」


小一時間後……俺は彼の格闘技ジムの中で、グローブやヘッドギアを

装着されていた。


「な、何スかコレは」


俺が知り合いにおずおずとたずねると、


「下手に連絡したら逃げられると思ってよ。

 電話しなくて正解だったぜ」


「へ?」


俺がきょとんとして聞き返すと、角刈りの知り合いはこちらをにらむように、


「……お前、弟に何も知らせていなかったようだな。

 しかもそいつが格闘技経験者だって事を俺に黙っていただろ?」


「え」


ま……待て待て。という事はアイツ、この人に勝ったのか?

アイツそんなに強かったのか!?

いくら何でもプロにはかなわないだろうと思っていたが―――


「警察まで来てよぉ。だが弟さんはよく出来た人でな。

 大事おおごとにしないって約束してくれたよ」


「い、いやぁ……アイツにそんな度胸ないっしょ?

 ちょっとおどせばすぐ引きますって」


「ああ。『こちらの身内が迷惑をかけたのは確かなようなので』、だってよ。

 お前、本当にあの人の兄弟かぁ?

 とても礼儀正しかったし、てめぇとは似ても似つかねえ」


俺が油汗をダラダラと流していると、


「じゃ、お前ら。ちょっと手合わせしてやんな。

 俺は一番最後でいいからよ」


「「「ウーッス!!」」」


そこでグローブをはめた1人が近付いて来て、


「ま、待ってくださいッス!!

 お金なら返しますから!!


 別に騙そうとしたとかそんな気は一切なくて―――」


「いやまあ、金はもういい。ただなあ……

 お前から合宿の話が来てからというもの、何か散々な目にあってんだわ。


 この前はどこぞの道場から交流試合に誘われてよ。

 それでボコボコにされるわ、しかもそこ警察と仲良いらしくて、

 練習生にケガ人が多かった事を不審がられるわで―――


 おかげでストレス解消が全然出来ねーのよ。

 というわけでちょーっとご協力お願いするわ」


俺は練習場の中央へ押し出されるように連れて行かれ……


「んじゃ組み手の『稽古けいこ』、スタート♪」


「ガタイだけはいいからな、いい的になるんじゃね?」


「オイ、無抵抗でいろとは言わないから、それなりに動けよ?」


そして無理やり『稽古』が始まり―――

俺の顔面にパンチが飛んで来た。

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